第47回 たまにはこんな日もあるさ
大雪で滑走路閉鎖中の成田空港

今年の初フライトは大雪で欠航した。天候の悪化を見越して成田空港にいつもより早めに着いたのはいいが、滑走路はすでに雪におおわれていて使えそうな気がまったくしなかった。チェックイン時には雪の影響で出発が早まるかもしれないと言っていたが、案の定、ドバイ行きのエミレーツ航空は出発時間をすぎてもまだ搭乗が始まらない。

年間100回は飛行機に乗っているのだからたまにはこんなこともある。大雪でも台風でもないのに欠航したこともあった。ロサンゼルスでシンガポール航空の、成田でタイ航空の欠航便に当たった。両社が加盟しているスターアライアンスのゴールドメンバーだが、その私でさえも振替の手続きはすこぶるめんどうだった。

航空会社のアライアンス(航空連合)は3つあるのだが、あいにくエミレーツ航空はどのアライアンスにも属さない。しかも乗るのはエコノミークラス。いくら3つとも上級会員といえどもラウンジに招き入れられることはないのだ。よりによってこんな日に!

成田空港でアエロメヒコ航空がオーバーナイトディレイしたときも、関西空港でトルコ航空の到着が遅れて終電がなくなったときも、タイ航空が欠航してバンコク・スワンナプーム空港への到着が遅れたときも、空港近くのホテルと食事が用意された。だから、今回もすっかりそういうつもりでいたら、搭乗口で寝袋をひとつ手渡された。がっかり。

聞いた話によるとその夜、成田空港で足止めを食った乗客は6千人。ホテルに泊めようにもそんなに空き部屋があるわけない。すでに出国しているので勝手に再入国するわけにもいかず、朝6時に次のアナウンスがあるというので3時間ほど搭乗口前で仮眠した。

結論、成田空港は空調完備でカーペットもふかふかなのでたいへん寝心地がよい。ただ出国後はコンビニがないので飲食できるものがかなりかぎられてしまう。これが出国前なら第2ターミナルにはコンビニも吉野家もあるし、警備員が巡回するウェイティングエリアもある。第3ターミナルから飛ぶLCC、春秋航空の早朝便に乗るために一晩すごしたことがあるが、うるさくて眠れない割にやたらと高い空港内のカプセルホテルよりもはるかに快適だった。

ようやく朝7時に翌日便(つまり決定時には当日便)への振替が知らされた。朝ごはんと2千円分のミールクーポンをもらい、出国中止手続きをし、ターンテーブルで預けた荷物を引き取り、ようやく外に出られるまでさらに3時間かかった。

しかし、ミールクーポンで寿司でもゆっくり食べてから振替便に乗ればいいというものではない。問題はドバイから先だ。ドバイはあくまでも経由地で目的地はエジプトなのだ。現段階ではドバイまでの便が新たに押さえられただけで乗継便に乗れるわけではない。しばらく待っても確約が得られなかったので、夜発のエミレーツ航空をキャンセルし、夕方発のエティハド航空に乗ることになった。確実に早く着くことが任務なのだから。

三食と寝袋をくれたエミレーツ航空を思いがけず食い逃げすることになってしまった。寝袋は返却する人も放置していく人もいたがまだ先は長い。今日という長い一日を寝っ転がってやりすごすためにありがたくいただいておいた。

80キロ超えの運びにくい形状のブツはターミナル間の無料連絡バスでは運べそうにない。大雪で交通が混乱しているため、かなり待ったがタクシーを捕まえた。エミレーツ航空が発着する第2ターミナルからエティハド航空が発着する第1ターミナル北ウィングへ。

どこでも人が横になっている第2ターミナルの混雑ぶりがうそのように第1ターミナルはいつもどおりだった。特に北ウィングは閑散としていた。しかし、この大雪での第2ターミナルの混雑ぶりも東日本大震災直後に比べたらたいしたことはない。3・11のときは難民キャンプかニューデリー駅と見紛うようなカオスだった。

エジプトから帰国して1週間後、今度は羽田空港から中国に飛ぶことになった。またしても天気予報は雪。21時頃から都内でも雪が降り始めたため、あわてて前泊の準備をする。その夜も雪に備えた人々でホテルは軒並み満室だったが、ようやく取れた蒲田のホテルにすべりこむ。2時間ほど仮眠して外を見ると雪は雨に変わっていた。やれやれ。

天変地異で飛行機が飛ばないのは誰のせいでもない。備えてもなお憂いがあるとき、自然の前に無力な人はせいぜい屁こいて寝て待つくらいしかできることがない。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトでの旅イベント「旅人の夜」主催。2017年現在、50カ国を歴訪。オフィス北野贔屓のランジャタイ推し。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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