241号/田中ティナ

先日、ギリシャでの会議に出席した折、古代遺跡を訪れる機会に恵まれた。

最初にオリンピックの採火セレモニーが執り行われる、オリンピアへ。紀元前776年、記録に残る中では最古の古代オリンピック大会(種目は短距離走)の会場となったスタディオン(競技場)が今もその姿を残している。観覧席中央に見える石で仕切られたエリアは、審判員もしくはVIP用の特別席だったのだろうか。紀元前、各地から集まった精鋭たちもこの場所で競い合ったという、グラウンドに細長く、スタートラインのように細長く敷き詰められた大理石のラインからグラウンドを走れば、彼らが今にもわたしの横に立ち現れそうな気がした。

また、アテネのアクロポリスやソクラテスなど哲学者たちがディベートした古代アゴラでは、人びとが闊歩していたその道を散歩した。さらに黄金のアガメムノンマスクや繊細なデザインのアクセサリーなど、国立考古学博物館の展示物を間近に見学しながら、オブジェの背景に存在した人びとに思いをはせた。それぞれの時代に生まれたみんなに人生があり悩みもあったのだろうなと。大げさに言えば、わたしも彼らといっしょに歴史の流れの一部にいるのだな、と青空に映える石柱を見ながら想像した。

通信技術の発達で便利な世の中になったのはありがたいことではあるけれど、その場に実際足を運び、対面してはじめて感じることをこれからも大切にしていきたいとあらためて思っている。

そして、アテネではこころに残る思い出がもうひとつ。今回椰子ノ木さんの寄稿文に登場する、「動物保護入門  ~ドイツとギリシャに学ぶ共生の未来~」の共著者、有馬めぐむさんとお会いすることができたのだ。ギリシャのお国事情と奮闘し、お子さんを育てながら執筆するめぐむさんとおいしいスブラキをいただけたのも、海外在住メディア広場と巡り合えたからこそのお宝である。

(スウェーデン、エステルスンド在住/田中ティナ)