第50回(最終回)ミリオンマイラーへの道

アメリカ渡航歴18年目にしてついにナイアガラの滝に行った!アメリカ渡航歴18年目にしてついにナイアガラの滝に行った!

『世界の果てまでイッテQ!』で世界を飛び回っている珍獣ハンター・イモト。そのイモトも持っているプレミア1Kカードを持っている。プレミア1Kカードとは、ユナイテッド航空のマイレージプログラム、マイレージプラスの最上級会員だけが持っているカードだ。プレミア1Kになるにはだいたい月に一度日本とアメリカを往復すればよく、出張でそんな生活をしている人はごまんといるので、実はプレミア1K会員はさして珍しくはない。

航空会社のアライアンスはスターアライアンス、ワンワールド、スカイチームの3つ。スターアライアンスはユナイテッド航空、ワンワールドはアメリカン航空、スカイチームはデルタ航空でマイレージを貯めている。北米に行くことが多いことやマイルの有効期限を考えるとこの選択が一番効率的なのだ。

2018年12月現在、ユナイテッド航空マイレージプラスは100万マイル、それにアメリカン航空アドバンテージとデルタ航空スカイマイルを足すと200万マイルを超える。たとえばマイレージプラスでは同じスターアライアンスの全日空の国内線が片道5000マイルで引き換えられるため、全日空が飛んでいるところなら日本国内どこでも100万マイルで100往復できる。

このマイレージプログラムの一環として、生涯総飛行距離(ライフタイムマイル)が100万マイルを超える上得意中の上得意様だけにミリオンマイラープログラムというのがある。いったんミリオンマイラーになると一生ステータスが保たれる。まったく搭乗しなくても生涯プレミアゴールド会員としての特典が受けられる。

さらに200万マイルでプレミアプラチナ、300万マイルでプレミア1K、400万マイルでグローバルサービスとよりグレードアップした特典が獲得できる。それはつまりユナイテッド航空の最上級は公にはプレミア1Kとされているが、さらに隠れ最上級としてグローバルサービスというステータスが存在するということでもある。

2011年、ユナイテッド航空で1000万マイルに到達した人がついに現れた。30年で6000回も世界を飛び回った人はシカゴ在住の自動車業界コンサルタント。チタン・ユナイテッド・マイレージプラスカードの唯一の保持者である。彼が一体どんな生活をしているのかまったく想像がつかないのだが、6000回には妻との旅行60回も含まれているそうなので、やもめではないようだ。

映画『マイレージ、マイライフ』(原題はUp in the Air)の主人公ライアン・ビンガムは、アメリカン航空で1000万マイルを達成する。そのうえ、彼はアメリカン航空の隠れ最上級ステータスと言われているコンシェルジュキーを持っている。

解雇宣告人として全米を年間300日飛び回るライアンは、家財道具も人間関係も負わない。しかし、テレビ電話による遠隔解雇プログラムの導入により、解雇宣告人である彼自身が解雇されそうになったことからこれまでの自分の生き方への疑念が芽生える。出張先で逢瀬を重ねてきた女性の自宅を訪ねて初めて彼女に夫と子供がいることを知ったライアン。結局、遠隔解雇プログラムは中止され、ライアンのマイル修行生活は続いていくのだった。

ジョージ・クルーニー主役のこの映画はコメディのはずなのだが、1000万マイル達成のお祝いに彼の座席にやってきた機長に「家はどこだい?」と訊かれ、「ここだよ」とライアンがこたえるシーンで大泣きした。もちろんユナイテッド航空の機内上映で見ながら。

この映画の原作小説ではライアンは1000万ではなく100万マイルを目指しているらしい。そうなるとやもめのライアンはますます私ではないか。いや、運び屋の仕事は解雇宣告ほどヘビーではない。とはいえ、珍獣ハンターほどエキサイティングでもないが。

路線によってはユナイテッド航空か全日空か選べるときがある。到着時間も航空運賃も大差がないなら、日本人にとっては断然全日空のほうが機内食もおいしいし、機内上映も充実している。もちろんスターアライアンスパートナーである全日空で飛んだ分もユナイテッド航空マイレージプラスでマイルが貯まる。しかし、全日空でいくら飛んでもマイレージプラスのライフタイムマイルには加算されない。マイレージプラスのライフタイムマイルとしてカウントされるのは、ユナイテッド航空での飛行距離のみ(2012年にコンチネンタル航空と合併したため、同社マイレージプログラム、ワンパスでのライフタイムマイルも引き継がれている)。

マイレージプラスのライフタイムマイルが70万マイルを超えた今、全日空に乗ってる場合ではない。先日はユナイテッド航空のビジネスクラス機内食でアメリカ発なのにうっかり和食を頼んでしまい、刺身と同じ皿に盛られていたコンニャクらしきものをほおばったら羊羹だった。イカの刺身で巻いたチーズもおハイソなアメリカ人にはきっとおいしいのだろう。日本人にとって普通においしい和食よ、日本でまだ公開されてないおもしろそうな韓国映画よ、インド映画よ、さようなら。全日空よ、しばしのお別れだ。

ユナイテッド航空で70万マイル飛んでいる間に、インターネットが普及するだけでは飽き足らず、ウェブサイトからブログへ、さらに140字のTwitterから写真とキャプションのインスタグラムへ、動画も時間無制限のYouTubeから15秒のTikTokへと、よりインパクト重視でわかりやすい短いものへと変遷していった。2000年代初めにモバイルパッカーの走りとしてノートパソコンで海外からリアルタイム旅行記を更新していた私も、今となってはスマホでネットサーフィンしている。

昭和から平成、そして新年号へと図らずも3つの時代を生きてしまった。出版不況、テレビ不況というより日本経済自体が失われた30年に突入しようとしているこのご時世だが、ミリオンマイラーになる前に今後の生きる指針となるような結果を出したい。

 

『運び屋だけどなんか質問ある?』はこれでひとまずお休みさせてください。いつの日か再開するのか、はたまた終了するのかは今はまだわかりません。ただ運び屋ネタはまだまだあるということだけは確かです。

 

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトでの旅イベント「旅人の夜」主催。2018年現在、50カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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