251号/凛 福子

春先というのは、気候が安定しない。やっと暖かくなったのかと思えば、また急に冷え込む。春に三日の晴れ間なし……といわれるとおり、晴れたり曇ったり、雨が多かったり。暖冬といわれたこの冬、東京には雪らしい雪はほとんど降らなかったが、かつて満開の桜に雪が積もったこともあるから、まだ油断はできない。

昨日のこと、久しぶりに清々しく晴れて暖かく、やっと本当に春がやってきたかと思わせるような天気だったので、仕事の帰りにいつもとは違うルートでちょっと遠回りしてみた。東京の街なかにも、そこここに春の花が咲きだして、気分がウキウキする。

通りがかりの家の庭にある桜に似た花が咲く木を見上げて、この花はりんごかな? 杏かな? と思っていたところ、すぐ先の曲がり角の向こうから「わぁ~春だねぇ」という声が聞こえてきた。

その声は、年端のいかない子どものもののように聞こえたので、ちょっと意外に思いながら歩みを進めると、幼稚園があった。もうみんな帰ってしまったのか、シーンと静まり返った幼稚園の門から、お母さんと男の子のふたりだけが出てきた。男の子の胸につけられた大きな花が卒園式だったことを物語っている。

見上げれば、早咲きの枝垂れ桜の大木が、まさに見頃を迎えていた。真っ青な空に、こぼれんばかりに咲くソメイヨシノよりは少し濃い薄紅色の花が映えて、たしかに思わず声を上げてしまうような美しさだった。

おそらく5歳の彼は、生まれてからまだほんの数回しか春を迎えていないだろう。それでも、この風景を見てあの、まさに今、私が感じているのと同じように、小さなよろこびとともに春の訪れを感じて、声を上げたのだ。なんだか無性にうれしくなって、ほのぼのした気持ちで親子の後ろ姿を見送った。

卒園した彼は、この後の人生で幾度かの卒業式を迎えることだろう。いつまでも、今の感性を忘れずにいてほしい。

今日、東京では桜の開花宣言が出された。いよいよ、春本番である。

(東京在住・凛 福子)