4  一人の難聴留学生が、企業を動かした/アメリカ合衆国

現在被災地には、国内外から様々な支援が寄せられている。インディアナ州に留学中の西川愛理さんは、特に被災地の難聴者のことを考えている。「彼らの補聴器の修理は、電池は、ちゃんと考えられているだろうか」と。補聴器の電池は、大抵1週間から2週間で替えなくてはならない。保証は1年か2年しか利かない。そして値段も安いものではない。彼らのそういった支援はどうなっているのだろう。

彼女は聴覚学を学ぶため留学してきた学生さんだ。自身も幼少の頃聴覚を失い、その経験を生かして今までも色んな活動に携わったり、提言したりしてきた。そして今回、彼女は世界各地に広がる各補聴器会社、そして人工内耳会社にメールを送った。返事は翌日から次々届いた。「ぜひ被災地の補聴器利用者に対して無償修理、電池配給の支援をしたい」、「今までに無かったことだが、人工内耳会社も補聴器協会と情報を連携したい」という声だった。その返事を受けた彼女は、各補聴器会社の日本支社にも連絡を取り、この決定が行動に移る際に滞り無いよう、パイプ役も務めた。特に支援方法が限られていた時には、「会社枠を乗り越えた、大きなグループとして支援をしたらどうか」とも勧め、かつて見られなかった、会社というレベルを超えたサポートが行われた。この動きは、企業だけでなく補聴器関係や難聴関係の協会にも広がり、前代未聞の『協会という枠を超えた動き』として、よりスムーズな支援が行われるようになった。

個人会社が自社の商品を使ってユニークな支援をしていることはマスコミでも紹介されているが、補聴器関係の支援に関しては、難聴の苦労を一番身をもって知っている一留学生のメールから始まったということは、いまだ知られていない。彼女は現在、世界に広がる友人達に呼び掛け、難聴者の心のケアがどうにかならないかと模索している。ブログも作り、英語で、日本語で、世界からの応援を載せ続けている。

彼女の想いは、補聴器会社・人工内耳会社を動かし、そして世界に広がる難聴者によるサポートの輪という形で大きな結果を導いた。そして今も「他に何ができるだろうか」と彼女は動き続けている。私たちも、出来ることからやっていこう。小さな一歩でも、続けていかなくてはいけないのだ。

平 こずえ/プロフィール
アメリカ合衆国コロラド州在住の聴覚士兼ライター。ブログ『Home Sweet Home in COLORADO』。Twitterアカウントはkzechan。どうでもいいようなことばかり呟いているが、回数は多い。西川愛理さんのブログはこちら