161号/スプリスガルト友美

結婚9年にして、住み慣れたポズナンを離れ、バルト海沿岸の港町、グダンスクへと引越すことになった。夫の勤務先変更に伴う引越しなのだが、夫は生まれも育ちもポズナン。新天地への期待がありながら、ちょっぴり寂しそうでもある。

同居の義母をひとりポズナンに残していくことに不安があった私たちは、一緒に来るよう提案したが、夫同様生粋のポズナンっ子である義母は、頑として聞かない。

そういえば、ポーランドでは、アメリカやイギリスへ仕事を求めて出て行く人が多い一方で、国内ではあまり移動しない人が多いように思う。結婚しても同じ町に住み続けたり、親戚中が同じ市内に住んでいることも珍しくない。そんな中、夫が下した決断は、ポーランド人とは思えないほど潔く見える。夫いわく、日本人の私と結婚した時点で、世界中どこにでも住む心の準備はできていたというから、国内のグダンスクは、夫にとってはとても近い場所だったようだ。

引越しといえば、もちろん荷物の整理をしなければならないのだが、モノの多さに自分でも驚くばかり。結婚以来、古いものをほとんど片付けないまま、新しいものがどんどん増えていったのだから無理もない。さらに、先日3歳の誕生日を迎えた娘の「赤ちゃんグッズ」をどこまで捨てるか。ちっちゃな洋服を見ては、懐かしさがこみ上げ、全部取っておきたくなってしまう。自分のものにしても、学生時代の思い出の品や結婚式に頂いたお祝いのカード、すっかり忘れていた本など出てきては、ついつい見入ってしまうので、ちっともはかどらない。

だが引越し先は、今義母と一緒に住んでいるこのアパートより部屋数も面積も少なくなることは間違いない。涙をのんで、「必要なもの」と「ゴミ」を分けているところだ。

引越しといえば、今月の特集コラムで、各国のアパート賃貸事情が読める。今の私にはタイムリーな話題だ。私はポーランドでは、学生寮に住んだ経験と、夫が子どもの頃から住んでいるこのアパートに住んだ経験しかないので、大変興味深い。私たちの引越しはこの秋。私がその経験談を書くことになる日も近い。

(ポーランド・ポズナン在住 スプリスガルト友美)