第13回 「万が一の心配をしない」能力

連載:『サモアの想いで』
文・写真:椰子ノ木やほい(ミシガン州・アメリカ合衆国)

大勢の乗客を乗せて今にも出発しそうなバスの後方で、座り込んでくつろぐ人々。出発を待つバスターミナルでよく目にした光景だ。「万が一バスがバックしたら」とは考えないのだろうか。いくら暑いからといって、こんなところに座り込まなくても……。

赤道にほど近いサモアでは、日中の強い陽射しから身を守るため、人々は日陰を好む。こんな落ち着かない日陰に座り込まれては、見ているほうがハラハラしてしまうが、ここで平気で歓談していられるのも、彼らには「万が一の心配をしない力」が備わっているからに思えてならない。

実際、落ちたら死ぬかもしれない高さの椰子の木に、命綱もなくスル

スルといとも簡単に登ってしまったり、魚を獲るために、荒波の海に素潜りで挑むことのできる強靭なサモア人の行動力には感心したものだ。ときに、サモアの人々には真の生きる力がみなぎっているようにも感じられた。

よく、南国の人は「おおらか」だと言われる。心がゆったりしていて、こせこせしていない。確かにそのとおりかもしれない。おおらかでいるためには、余計な取り越し苦労をしないで、深く考えず今を楽しく生きることがコツにちがいない。「万が一」を想定せずにすめば、取り越し苦労もないだろう。

転ばぬ先の杖で何かと先回りしたり、石橋を叩いたり、念には念を入れて行動することは良いことだと信じていたが、明日の心配をすることなく大声で歌い、笑い、今日を楽しく生きる生き方を目の当たりにすると、深く考えないことも良いことだと思えてきた。彼らに備わっている天性の“おおらか力”は日本で生まれ育った者には簡単には真似できないようだ。

≪椰子ノ木やほい/プロフィール≫
フリーランスライター。1997年、のんびりゆったり子育てと、シンプル&スローライフを求めて、家族(夫・子ども4人)で南太平洋の小国サモアに移住し4年間の南国生活を楽しむ。2001年より、アメリカ合衆国・ミシガン州在住。 「ぼへみあんぐらふぃてぃ」