第14回 学校では学べない体験……犬の手術

連載:『サモアの想いで』
文・写真:椰子ノ木やほい(ミシガン州・アメリカ合衆国)

「ただいま~!」という声を聞いたかと思うともういない。サモアの学校は昼過ぎには終わってしまう。帰宅するやいなや、息子たちは上半身裸で庭に飛び出して行く。行く先は、同じ敷地内に住んでいた獣医さんの家だ。

大家さんの家を取囲むように建てられた、数軒の賃貸住宅の一角がサモアの我が家だった。その中のひとつには、日本から青年海外協力隊員として派遣されていた獣医のクニさんが住んでいた。

サモアでは犬は放し飼いなので、そこらじゅうに犬がいる。「動物を飼う責任」といった意識も無いに等しい。クニさんは、そんな環境を少しでも改善しようと、犬やネコの出張避妊手術をはじめ、担ぎ込まれる病気のペットの手当てなど、整った設備のない中で、テキパキと手術や治療にあたっていた。我が家の子どもたちは、庭先で行われるその様子を興味津々でよく見物した。

なかでも末息子は、「弟子入りしたの?」というほど入り浸っていた。見ているうちに、アレ取って、コレ持ってといった助手(?)をさせてもらえるようになり、「オレ、もう犬の手術の仕方はだいたいわかるよ」「オレも大きくなったら獣医になろうかな」などと豪語するほどになった。本人的には、体験からほとんどを学び、かなり勉強したつもりらしい。

何しろ、この息子の腕に釣り針がささってしまった時、摘出してくれたのはクニさんだった。オロオロするばかりの親より、クニさんをすっかり信頼してしまった。クニさんからすると、迷惑極まりない、小さな訪問者だったことだったろうが……。

さすがに、今獣医になりたいとは言わなくなったが、この体験は子どもたちの心の奥底にしっかりしまわれいてるようで、我が家のペットが病気になるたび、「クニさんがいてくれたらな~」の声が聞こえる。

≪椰子ノ木やほい/プロフィール≫
フリーランスライター。1997年、のんびりゆったり子育てと、シンプル&スローライフを求めて、家族(夫・子ども4人)で南太平洋の小国サモアに移住し4年間の南国生活を楽しむ。2001年より、アメリカ合衆国・ミシガン州在住。 「ぼへみあんぐらふぃてぃ」