第10回 人権ならぬ「コイ権」論争/ポーランド
クリスマスイブの食卓に並ぶ鯉のムニエル

国民の大半がカトリック信者というポーランド。カトリックの習慣では、クリスマスイブには肉料理を控えることになっているので、ポーランドでもイブのディナーは魚料理が中心。メインディッシュは伝統的に鯉料理だ。

市場や大型スーパーに大きないけすが登場し、その中をところせましと鯉が泳ぐ姿を見かけるようになる昨年末、人権ならぬ「コイ権論争」が勃発した。

ことの発端は、11月末、セレメト検事総長が「鯉がさばかれる際には、鯉を苦痛やストレスから守ってやらねばならない」との主張を4枚にわたる公式文書でポーランド各地の検察庁に送ったことだ。

「販売者は、いけすに鯉を入れすぎず、広々と泳げるようにしてやらなければならない」

「生きている鯉を買う場合は、袋詰めにするのではなく、水を張ったバケツに入れてもって帰らなければならない」

「鯉がなるべく苦しまないように配慮しなければならない」

さらに、「輸送の際、水が少なすぎるなどの理由で鯉が死んでしまった場合は、『非人道的(コイ道的?)扱い』として2年以内の実刑をくだすべきだ」と付け加えた。

生きた鯉を買ってきてイブ当日までバスタブで泳がせ、活きのよいところを調理する、というのはポーランドの家庭でよく見られる伝統的な光景だ。そのため検察庁内でも「それなら、どれだけの家庭に『鯉殺し』の犯人がいるというんだ」、「鯉の運命を案ずるよりもっと大事な事件があるだろう」といった批判の声が上がった。

一方、毎年この時期に鯉の扱いについて抗議を繰り返してきた動物愛護団体は、当然のことながらこの検事総長の意見を褒め称えた。

そういえば、前(故)カチンスキ大統領がその就任中、アメリカの感謝祭で恒例の大統領による「七面鳥恩赦」の習慣にならって、鯉に恩赦を与え、ヴィスワ川に放していたこともあった。

「コイ論争」は来年もさらにエスカレートするのだろうか。ポーランドのクリスマスを象徴する伝統的な鯉料理が消えてしまわないことを祈るばかりだ。

<情報ソース>
(ポーランドのテレビ局TVN24のニュースサイトより)
http://www.tvn24.pl/12690,1728572,0,1,karp-martwy-albo-do-wiaderka,wiadomosc.html
http://www.tvn24.pl/12690,1727340,0,1,seremet-w-obronie-ryb-prokuratorzy-to-zart,wiadomosc.html

スプリスガルト友美(すぷりすがると・ともみ)/プロフィール
ポーランド生活も10年になり、鯉料理なしのクリスマスイブは考えられない今日この頃。1年前のイブには初めて生きた鯉の調理に立ち会い、ショックを受けつつ「まな板の上の鯉」の意味を実感。魚をよく食べる国・日本からやってきたとはいえ、生きた鯉を家庭でさばいてしまうポーランド人には、今でも感心してしまう。ブログ「poziomkaとポーランドの人々」