第1回 小学校に入れない!?

「入れる小学校が無かったらどうしよう!?」などという悩みを持つ日が来ようとは、日本で生まれ育った私には、考えつきもしないことだった。だから、「学校?もちろん、妊娠しているときから、ウェイティングリストに名前をのせていたわよ」などと、いけしゃあしゃあと言うママに出会ったときはぞっとした。妊娠中といえば、ホルモンバランスの不安定さにめそめそしているか、とにかく眠くて、昼夜を問わず惰眠をむさぼっていた私からすると、よくもそんな先のことを考える余裕があったものだと感心もした。

そんなわたしも、息子が4歳になる頃には、ロンドンの中心地、特にわたしたちの住む北西ロンドンは、家族に人気の暮らしやすいエリアであり、実に子供が多く、実に学校の少ない激戦区であるということを、嫌と言うほど知るようになった。数年前に幼稚園に申し込んだ際にも、10件近くウェイティングリストに載せたというのに、フルタイムの幼稚園には、まったく空きが無かった。ずいぶん遅れて、自治体の運営する午前中だけの幼稚園に通えることになったときは、息子よりわたしが、飛び上がるほど喜んだ。

ようやく入れた幼稚園にて。工作の時間、日本へのメッセージを

緑が多く、子供のいる家族に人気のハムステッド・エリア

住所によって、校区が割り当てられている日本とは違い、イギリスは公立であっても、親が希望の学校を5校選び、優先順位をつけて区に提出し、どの学校からオファーが来るかをひたすら待つ、というしくみになっている。そもそもロンドンの小学校のほとんどが、1学年1クラス30人のみといった、とても小規模なところが多く、隣の小学校まで数百メートルという立地の場合もあるため、厳密に住所で区画する事が難しいのかもしれない。

さて、実際どのように公立の学校が子供たちに割り振られるのかと言うと、まず、クリスチャン系の学校であれば、その学校の経営母体である教会に通っているかどうかが問われる。公立の学校だというのに、特定の宗教の人だけを優遇することなどあっていいのかと憤慨もするが、ここはイギリス、まんまとまかり通っているのである。これに対して、神父から紹介状をもらえるまでの一年間、まじめに教会に通い、希望の学校に子供を入れるという裏技を使う親たちも少なくはない。実際、わたしたちの希望の学校は、家の真ん前にあるクリスチャン校。そしてその教会にいたっては、我が家の隣だったのだから、週に一度通う事くらい不可能ではない。けれども、わたしはかけらもクリスチャンではないのだから、いくら子供のためとはいえ、自分に嘘をついて教会に通うさまを、子供はどう見るだろうか、と考えた末、断念。

第二希望は、その地区でもっとも評判の良い人気校。こちらは問い合わせの時点で、「今いる生徒たちの兄弟姉妹だけで、定員いっぱいです」とのこと。クリスチャン校でなければ、兄弟姉妹を最優先、そしてその次にようやく、住んでいる家の近い順、ということになる。

こうして大方の希望がはかなく敗れ去った頃、キャメロンがやってきた。もちろん、ご本人登場というわけではないが、キャメロン首相率いる連立政権がご登場されたのである。そして連立政権が力を入れる教育政策のひとつとして「フリースクール」が導入された。どこに?うちから徒歩で10分のところに。

おかげで小学生になりました

「フリースクール」とは、親や教師のグループ、慈善団体、教会、企業等が新規に設置する学校のこと。「フリースクール」の設置を希望するグループは、教育省に設置を申請し、審査を受ける。いわば審査に通りさえすれば、国から直接、運営資金を受け、誰もが学校を設立することが出来るということになる。わたしたちの家からほど近い所にできた「フリースクール」も、子供を持つ一般の主婦の女性が、ご近所さんたちとともに、地域の学校不足を懸念して設立を思い立ったのだという。

新設校となると、兄弟優先もなく、家の近さが唯一の判断基準となる。幸運な事に、私たちの家はぎりぎりのところで、範囲内に収まり、息子は、昨年9月にイギリスで開校された24校のフリースクールのひとつであるこの学校に、毎日元気に通っている。この政策により、学校不足が完全に解消された訳では決してないのだが、親としては、とりあえず我が子が学校難民にならずに良かったと、胸を撫で下ろさずにはいられない。

平川さやか/プロフィール
フリーライター/フォトグラファー/メディアコーディネーター
北海道札幌市生まれ。ファッション、インテリア、旅、キッズの分野を中心に、取材、撮影、執筆を手がける。夫と息子と白黒の猫とロンドンハムステッドに住んでいます。猫とお笑いと旅が好き。ブログヴァージンアトランティックのブログVもよろしくお願いいたします。