第3回 アスレチックトレーナーは保健室の先生?

高校対抗のバスケットボールの試合、ベンチ横で忙しく立ち働く女性がいた。両チームのベンチを行き来して、打撲した選手の様子を見たり、他の選手に水を与えたりしている。アスレチックトレーナーのステイシー・ラーサムさんだ。

ラーサムさんはミシガン大学ヘルス・センターからミシガン州のノース・ファーミントン高に派遣されていて、全てのスポーツ部活動をフォローし、同校を会場とする全試合にアスレチックトレーナーとして参加している。

「多岐にわたるスポーツ種目の知識が必要ですが、市内の他の高校にも同じ職場から派遣されているトレーナーがいるので、連携をとりあって情報交換しています」とラーサムさん。

成長期の高校生たちが、体に負担がかかりすぎる無理な練習をしていないか、ケガや不調をコーチや監督に隠して、試合に出場していないかに目を配っている。「私の仕事は選手の体を守ることです。試合に出るのが難しいのではないかと思うときにはコーチ(監督)と選手の間に入って話をすることもあります。コーチにはよく理解してもらっています」と話す。また、手術が必要なケガなどは、保護者に説明をする役割も受け持つ。

学校の体育館の隣がラーサムさんの事務所。小さな部屋のなかには治療や診断に使うベッドや冷却用の氷、テーピング用テープなどが揃えてある。ドアは常に開けたまま。途切れることなく運動部員がやってくる。

足首が痛いと話している野球部員に「どういうときに痛みはある? 走ったとき、歩いたとき、階段の上り下り?」と手際よく話を聞き、足首を強化するエクササイズを教えるラーサムさん。野球部員は話を聞いてもらうと、少し安心したような表情で部屋を出ていった。

私は校内のトレーナー室でのやりとりを見ていて、日本の学校にある保健室をふと思い出した。そんな雰囲気だった。

谷口輝世子/プロフィール
2011年11月『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)を出版。デイリースポーツ社でプロ野球、大リーグを担当。2001年よりフリーランスライターに。『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)、『スポーツファンの社会学』(分担執筆・世界思想社)