第7回 作業の流れは上から下へ

部屋としての箱が完成したら、次のステップは内装関連、住むための快適さを整える工程だ。たとえば天井のペンキ塗り、壁紙貼り、キッチンなど作り付け設備の組み立て、バスルームのタイル、シャワー、トイレや洗面台設置から、モールディング(床材と壁や天井と壁の継ぎ目を覆う飾り)の設置、暖炉、電気器具、換気口カバーの取り付けなどなど。毎日の生活で目にする部分なので、美しく仕上がるようディテールにもこだわる作業が続く。

室内工事も作業手順や準備が大切だ。目標とするできあがりから逆に手順を考えないと、完成した部分を汚したりキズつけるし、壊したところの手直しなど二度手間になる。基本的には上から下へと作業するのがスムーズなようだ。つまり最初は天井から。ほかの作業状況にもよるけれど、道具や資材をおいたり、外靴で歩きまわる床をきれいにするのは最後の仕事となる。

とくに長くて暗い冬、室内が少しでも明るく感じられるように木のパネルを貼った天井の色は白と決めた。2階のホールの天井は損傷が激しかったので新品に交換。そのほか、2階の寝室、仕事部屋と1階は古い建材を流用するため、まずはペンキがのりやすいように古ペンキをガシガシとかき落して下準備。ペンキはベース1回、その後仕上げ用を2度塗りする。ローラーでペンキを塗るのは初体験だ。テレビのリノベーション番組を見ていると、スルスルといとも簡単そうに見えたのだが、やってみると意外と難しい体力勝負の作業だった。というのも、天井は1枚板ではなくパネルを組み合わせた状態なので、パネルの継ぎ目が微妙に凸凹している。凹んだ部分にもしっかりペンキを塗りこむためには、ローラーを天井に押し付けながら動かさなければならない。ローラー自体は重くないけれど、重力に逆らいながらローラーを動かすと4~5往復しただけで肩の筋肉にじんわり疲れを感じる。よくばって多めにペンキをふくませれば、天井に押し付けたとたんポタポタとペンキの雨が降りかかる始末。何事も一筋縄ではいかない。見上げればいつも目に入る天井だから、とくに最後の塗りはむらのないようにと、夫が目を凝らして仕上げた。


専用のコーキングガンにラーテックスをセットして充填材料を注入後、指で押し込むように滑らかiに整える。

ただし、塗っているときは完璧に見えても、ペンキが乾くと天井や壁のパネル間にどうしても隙間ができることがある。白地に黒く浮き上がる溝。抽象的なデザイン、と思えなくもないけれど、少々無理がある。が、困ったときにはなんらかの解決策があるもので、隠したい溝や穴をふさぐ作業、コーキングにはスウェーデンならラーテックスが最強だ。練り歯磨きのようなやわらかさのパテを埋めたい部分に注入、指で伸ばし、残りをぬれたふきんでふいてできあがりと、扱いも簡単。「ラーテックスは大工の大親友」と、夫の信頼を得るに値する優れものだ。

国土の65パーセントほどが森林というスウェーデン。建築資材となる木材が豊富なためか、また木造住宅には木の床が似合うからか、住宅の床に冷たい感触のリノリウムやふかふかのカーペットを敷き詰めるケースは一般的ではないようだ。室内全体としては木目を楽しみながら、食卓やソファーテーブル、また立ち仕事などで汚れやすいキッチンなど、部分的にカーペットを敷くことが多い。好きな色や素材のカーペットを効果的に配置すれば、コーナーごとの雰囲気も手軽に演出できメリットも大きい。

ビフォア-アフター。その違いは一目瞭然
延べ13時間、テクニックが必要な機械操作は夫が担当。機械の中ではバンド状の紙やすりが回転。最後に白濁の液状洗剤を塗る。

我が家は築約120年の木造家屋。「床は木の肌触りを素足で感じたい。せっかくだから家の中もエコでいこう!」と、表面はニスなどでコーティングせず、木の質感をいかしながら保護する役目も果たす無垢材専用の液状洗剤を染みこませた。1階には新しい床材を手配。2階は水などによるダメージもないので以前の床板を流用する。古い床はリノリウムをはがしたキズや汚れを落すため、35mmある床板の表面を2~3mm削った。研磨するための機械はペンキ屋で拝借。床の釘が機械に引っかかると危ないので作業前に釘のあたまが出ていないかチェックする。機械は紙やすりを回転させて木を削る方式で、目の荒いものから細かいタイプへと使い分けて3回削り、木のささくれがないように滑らかに整えた。こうした作業を経て2階の床は見事によみがえり、今日もしっとりとした木肌をみせている。

古い家に手を入れるとき微調整は欠かせない。なぜって、壁と柱、床や天井、どこを見てもそれぞれが完璧な垂直や水平を保っていることはまずないからだ。微妙にゆがんだ家は味わい深いけど、安全で住み心地のよい家を造るためには妥協点を見つけ、その落しどころを計算しながら工夫する必要がある。

コーナーはとくにしわがよらないよう慎重に。へらで空気を押し出しながら壁紙を圧着させる。壁紙をまとうと建築現場が家の装いに変身した。

天井のペンキを塗り終えた1階の壁紙貼りも例外ではなかった。天井と壁とのラインを過信し、それに合わせると壁紙がすこしづつ斜めになっていくので、ストライプがきれいに垂直になるようにチェックしながら貼っていった。一昔前の壁紙は紙にのりをつけてから貼るタイプが主流だったが、壁に貼るときにのりがあちこちについて図柄あわせなどには難儀したそうだ。その手間を省くため、今回はまずローラーで壁にのりを塗り、その上に貼ることのできる壁紙を使用した。作業効率を助ける製品の進歩も日進月歩なのだ。

田中ティナ/プロフィール
エステルスンド在住。ライター、写真撮影、翻訳業。冬はフリースタイルスキー(モーグルなど)のジャッジとして活動。2010年より義母より譲り受けた古民家を本格的に改築開始。2011年秋、新居に引越し、現在はテラスを増設中。