第3回 ハイナンチーファン -海南雞飯- シンガポール
ハイナンチーファン -海南雞飯- シンガポール
ハイナンチーファン -海南雞飯- シンガポール

日本でもポピュラーになりつつある海南鶏飯(中国語でハイナンチーファンと読む)は、別名シンガポールチキンライスとも呼ばれる料理。鶏肉をゆでて、そのスープで炊いたごはんと、ゆであげてから冷ました鶏肉のぶつ切りを盛り合わせたワンプレートディッシュで、おろしショウガなどの薬味やタレとともにいただく庶民の味だ。別名からもわかるように、シンガポールでは町の食堂など、どこでも気軽に楽しめるソウルフードと呼べる定番メニューである。

しかし、シンガポールにある食堂でも、英語の“Singapore Chicken Rice”の文字とともに看板に踊るのは「海南鶏飯」という漢字……つまり中国語だ。そう、海南島は中国南部にある、中国のハワイとも称される島。その島の名前が、なぜシンガポール料理につけられているかというと、かつて中国の海南島からシンガポールに移住した華僑の家庭料理がベースになっているから。とはいえ、現在の海南島でこの料理が名物なのかというと、そういうことでもないらしいというからおもしろい。

一方、近隣諸国でもこれによく似た料理がみられる。しかし、それらに「海南」の地名がついているわけではない。たとえばタイでも庶民に親しまれているほぼ同じ鶏の料理は、カオマンガイと呼ばれる。もっとも、極めてシンプルな料理であり、さらにイスラム教徒の多い地域では鶏肉料理が好まれることもあって、自然発生的にこのような料理が生まれても不思議はない。食べ比べてみると、使う米や鶏の種類、添えられるタレにそれぞれの国の味や嗜好が反映されているようだ。

ともあれ、私にとっては、もうウン十年前にシンガポールで初めてこの料理を食べて感激して以来、やっぱりこれはSingapore Chicken Rice=海南鶏飯! もちろん、簡単な料理なので家で作ってみたりもするのだが、近頃はこの料理をメニューに載せている……どころか、店名として看板に掲げる店まであるほど身近で手軽に食べられるようになり、出先でひとりメシのときなど重宝している。

というわけで、オススメの1軒を紹介しよう。せっかくなら、雰囲気も楽しめるところで食べたい! と、選んだのは中目黒の路地裏にあるお店。築45年の工場をリノベーションしたという一軒家のお店は、レトロな佇まいで、本当にアジアのどこかの町の食堂のような感覚に、入るときからちょっとワクワク。

シンガポールレストランと銘打っているが、メニューには近隣のアジア諸国の「あんな味」「こんな味」が並んでいて魅力的だけど、今回は迷いを捨てて、お目当てのハイナンチーファンをオーダー! ほどなくサーブされたお皿は、現地の食堂よりだいぶシャレた、おろしショウガとチリソース、ちょっと甘い甜麺醤風のタレ用の指定席(笑)つきだったけれど、料理はまさに本場さながら。長粒種のパラリとしたごはんも、添えられたさっぱりめのスープも、いかにもそれらしい仕上がりだ。料理も雰囲気もアジアっぽさを満喫できる、ランチタイムに楽しめるショートトリップをぜひ!

五星鶏飯 Five Star Cafe

≪福子(ふくこ)/プロフィール≫
東京在住。アジアを中心に、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。料理は食べる環境によっても味わいが変わりますよね。蒸し暑い日本の夏には、東南アジアの料理がイメージ的にぴったりくるかな? と思い、今回はアジアの料理をクローズアップしました。今後も編集部メンバーほか、世界各地に暮らす執筆陣のナマの現地情報も交え、日本で楽しめる世界の味の魅力をお届けします!