第4回 24時間ルール

スポーツには、競技をする人だけでなく、見る人を興奮させる力がある。

オリンピックやサッカーのワールドカップをテレビ観戦しているときや、ひいきのプロ野球チームを応援しているとき、多くの人が前のめりになって競技や試合に熱中した経験を持っている。

スポーツの試合にのめりこむことで、選手やチームとの一体感を得ることができ、地域全体、国全体で盛り上がりを共有することができる。

しかし、その興奮が悪い方向に進むと観客の一部が暴徒化し、スタジアム周辺でいざこざが発生しやすくなるのもよく知られていることだ。

米国はスポーツが盛んで、自己主張をしっかりとするお国柄。子どもたちのスポーツにおいても例外ではない。保護者たちは大声を出して熱心に応援し、子どもたちと一体化する。

しかし、ときどき、行き過ぎた状態に陥り、審判にヤジを飛ばしたり、相手チームの観客と罵り合いになったり、監督やコーチに起用法や戦術に関する不満をぶつけたりすることが起こる。

そのため、私の近所の高校スポーツでは「24時間ルール」というものが設けられている。選手である高校生とその保護者が、チームの監督やコーチに対して「なぜ、あの場面で自分を使ってくれなかったのか」などの不満をぶつける場合は、「試合終了から24時間が経過してから」というもの。要するに、お互いに頭を冷やしてから話し合おうということだ。

もう10年以上も前のことだが、米国の子どものアイスホッケーの試合で、保護者の一人がリンク上でコーチを殴り殺すというとんでもない事件があった。最近ではNFL(プロアメリカンフットボールリーグ)で地元のチームが負けた場合、家庭内暴力が起こりやすくなるという研究結果が発表されている。特に試合終了から2時間以内に通報件数が多くなるそうだ。

筆者の息子が参加している少年チームでも24時間ルールは適用されている。コーチは保護者とのコミュニケーションを重要視しているが、試合に関する内容は試合終了後24時間を待って、話し合うことになっている。

スポーツはまつりのように非日常であるからこそ、興奮し、熱狂し、楽しむことができる。しかし、試合が終われば、選手も観客も日常生活に戻っていく。いつものように食事をし、風呂に入り、眠ることで、余韻はあっても、気持ちの高ぶりが収まってくる。スポーツをする子どもと、その親も同じこと。テレビを見たり、宿題に追われたりしているうちに、試合中や終了直後に感じた興奮やイライラがしずまることが少なくない。

筆者自身は今のところ、「24時間ルール」の効能を実感している。

谷口輝世子/プロフィール
2011年11月『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)を出版。デイリースポーツ社でプロ野球、大リーグを担当。2001年よりフリーランスライターに。『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)、『スポーツファンの社会学』(分担執筆・世界思想社)