174号/たきゆき

9月‐暦の上ではもう秋。この季節になると、いつも思い出すことがある。ドイツに来て間もない頃、好きな季節を聞かれ、「秋」と答えて、ドイツ人にいつも変な顔をされたのだ。私にとって「秋」は、まさしく「天高く馬肥ゆる秋」。それまでの暑さもやわらぎ、でも日差しはまだ暖かく、晴天の日も多くて、外出が楽しみになる……そんな季節だったのだ。

ところが、ドイツ人にとって「秋」と言えば、まったく正反対の印象を与えるものらしい。日が短くなるから朝晩は暗く、雨続きで、(特に北ドイツでは)風も強くなり、外出どころか、お部屋で静かに本でも読んで……という季節だという。でも落ち着いて考えると、その年によって差はあるものの、大抵9月から10月の初めにかけては、まだ私が好む「秋晴れ」の天気も続くことが多く、ドイツ人が嫌う「秋」が本格的になるのはそれ以降だ。そんな反論をしていたら、友人たちから、あなたが好きと言っているのはドイツ語の「Spätsommer(晩夏)」だ、と教えられた。英語の「インディアン・サマー」に近い意味らしい。

ドイツにはこの季節を指す言葉として「Altweibersommer(老婦人の夏)」という表現もある。この時期に森へ散歩に行くと、クモがあっちの大木からこっちの老木へと張り巡らした大きな巣に夜露が連なり、日の光を浴びて、まさに老婦人がまといそうなレースのショールのように見える。キノコ狩りに行けば、熟した木の実を探して歩き回っている鹿の姿をみかけることもある。

ドイツの本格的な秋を迎える前に、美しい晩夏を満喫したい。

(たき ゆき ドイツ・キール近郊在住)