7 左あしのないジュード/米国・ミシガン州

前回、「アメリカでバリアフリーを考える」と題して、米国でのバリアフリーの取り組みを紹介したが、今回は、身体障がい者のジュードのことを伝えようと思う。

バリバリ元気でいつも笑顔

彼女は、わたしが通うワークアウト施設で出会う仲間だ。いくつもの筋トレマシーンが並ぶ場所で、義足姿でエクササイズしている様子をはじめて見たときは、正直ドキッとした。自宅では車椅子を愛用しているそうだが、ワークアウトのときは義足を装着するのだ。

現在53歳のジュードにとって1997年の6月6日は運命の日だ。勤めていた病院での仕事を終え、大好きなバイクに乗って帰宅する途中に交通事故にあった。事故の瞬間、自身の左あしがぶっ飛んだことはしっかり記憶しているという。ヘリコプターで大きな病院に移送され、すぐ手術。麻酔から目が覚めたときから左太もも半分から下がない人生がスタートした。こう聞いて、なんと不運で気の毒なことと思ったが、その様子を説明する彼女は朗らかで、まるで映画の一シーンを描写するかのようだ。

いくら明るく話されても、恐ろしい状況が想像できて、聞いているほうは思わず眉間に皺がよってしまうが、悲愴感もなければ、後悔の念も微塵も感じられない。それどころか、“たくましい”とか“潔い”という言葉は彼女のためにあるのかとさえ思う。

「あしは失くなった。でも得たものもたくさんある。困ることもあるけど、得することもある。事故は不運だったけど、それだって自分でバイクに乗ることを選択し、あのときスピードをあげた結果起こったことだしね」と微笑む。

ハンディキャップ用のパーキングに車を止めながら、”I gave my leg to park near the door.(ドアの近くに停めるために左あし献上しているからね)” 。「米国の医療保険料が高いことには、うんざりでしょう? 保険料に対しての“手切れ金”として“左あし”をあげたわたしは、もう保険料は払わなくていいどころか、もらえるばっかりさ。はっはっは~!」 といった具合に次から次へとあしネタジョークを連発する。

交通事故だったため、相手の車が加入していた保険で彼女の6万ドルもする義足代や治療費、病院通いの交通費から、障がいの身になったことで必要となる自宅のバリアフリー化のための改築費用、乗っているバイクの改造費にいたるまでカバーするそうだ。加えて、年金が働けなくなったことを全て保証してくれるので、「37歳でリタイアできちゃったのといっしょさ」とにっこり。

バイクに乗っていて事故にあったというのに、夫婦共々、ハーレーフリークなので愛車に補助輪をつける改造を施し、未だ根性でバイクに乗っているというから恐れ入る。それどころか、「バイクで引いていけるトレーラーがほしいの。だってトレーラーがあれば、バイクで車椅子を運んで行けるでしょ!」と次なる目標をキラキラ話す。

もしもう一度人生が選べるのなら、もちろん「あしのある人生がいい」でも、どうせ選べないのなら、「人生が楽しくなるように生きること」を“選ぶ”ときっぱり。


この上なく、元気がうつってしまいそうなオーラを放っているジュードだが、経緯をきくと、いつ誰にでも障がい者になる可能性はあることを改めて思い知らされる。彼女が笑顔でいられるのは、社会的な弱者となった人々を守ろうとするアメリカの優れたバリアフリーの環境、保険や年金の仕組みに支えられていることはまちがいないが、その恩恵に応えるべく前向きに生きる姿勢には、心からエールを送りたい。

椰子ノ木やほい(やしのき やほい)/プロフィール
アメリカ・ミシガン州在住。「海外在住メディア広場」運営・管理人。
先月、アメリカのバリアフリーについて書いたという話をジュードにしたら、「それはすばらしい、どんどんそういうトピックに触れてほしいな」とジュードが言うので、ついでに彼女のことも書いちゃいました。Twitterhttps://twitter.com/mediahiroba