第2回 猫ナシのニュージーランドなんて!

世帯数に対し、世界で猫を最も多く飼っている国はどこかご存じだろうか。ちょっと意外かもしれないが、それは小さな島国、ニュージーランドなのだ。ニュージーランド・コンパニオンアニマル・カウンシルが2011年に行った調査によれば、全世帯の48パーセントが1匹以上の猫を飼っており、犬を飼う家庭の29パーセントと比較すると、ずいぶん多いことがわかる。人口ならぬ、「猫口」は約142万匹といわれている。

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「キャッツ・ウィル・ネバー・ゴー」
国民の大多数が愛猫家というこの国で、今年の1月下旬に、有名な経済学者であるギャレス・モーガン氏が、「希少な原生鳥類を守るために、猫の徹底排除を」と呼びかけ、『キャッツ・トゥー・ゴー』というキャンペーンを始めた。ニュージーランドでは、飼い猫といえど、家の内外を自由に出入りできるのが普通。そんな猫が、固有の鳥を捕まえるために、数が減っているというのが、氏の言い分だ。

この国の人々は常々、ニュージーランドならではの鳥類をとても大切にしているが、だからといって家族同様の猫にさようならしようとは毛頭思っていない。管理方法を大々的に見直し、マイクロチップの埋め込みの義務化などを進めるべきと考える人は少なくないが、猫の数をゼロにすることに賛成の人はごくわずかだ。

マスコットは猫でなくちゃ
猫好きの国民性は、猫がよくマスコットになっていることからもうかがい知れる。第一次世界大戦にはスノーウィー、第二次世界大戦にはロンメル、ワラッド、タイガーといった猫たちが部隊のマスコットとなり、兵士たちを慰めた。また1930年代、幾つもの輝かしい飛行記録を打ち立てた女性飛行家、ジーン・バッテン女史と共に空を飛んだのも、バディーという猫だった。

私が住むタラナキ地方は、有名なマスコット猫2匹を輩出している。1匹は、1990年後半に、アイスクリームサンデーの容器で作ったヘルメットをかぶり、主人のマックス・コーキル氏とオートバイで颯爽とクルージングしたラストゥス。晩年、寄付金集めをして、動物福祉の充実を目指す団体、SPCAに大きく貢献した。そして今1匹は港を住みかにしていたコリンズだ。2001年にコンテナ船に乗り込み、韓国まで3週間の旅をして戻ってきたことで一躍有名になった。日本を含め、各国のメディアで取り上げられ、ニュープリマスが世界中の注目を浴びたのは彼のおかげと、市の名誉大使に任命された。2007年にコリンズが死ぬと、多くの人が彼を惜しみ、港に小さなメモリアル・ストーンを建てたほどだ。

テレビのスタジオで写真に納まるハクと飼い主。ハクの盗っ人ぶりを知った、テレビのモーニングショーから声がかかり、初出演を果たした© Sally McLennan

「泥棒猫」は洗濯物がお好き
面白いことに、原生の鳥は捕まえてこずとも、隣家に干してある洗濯物を盗ってくる「泥棒猫」の話は後を絶たない。大きいものでは、シーツまで持ってきてしまうツワモノもいる。北島のネイピアに住むアンガスはそれだけでなく、食べかけのサンドイッチ、長靴、ロールパンまで持って帰ってきた挙句、それら盗品に囲まれて昼寝をするのが好きときている。南島のクライドに住むスキッツは人形など、かわいいものに目がなく、今までに15体以上のテディベアをくすねている。インバーカーギルに住むガスは60足以上の靴を集め、町中を仰天させた。首都ウェリントン近郊に住むハクは一晩で洗濯物14枚というペースで盗みを働く、「ねずみ小僧」ならぬ「猫小僧」だ。飼い主はとうとう彼の名でフェイスブックのアカウントを立ち上げ、そこに猫が盗んできたものの写真を掲載。何とかして持ち主に返そうと必死だ。

私たちの心を和ませてくれる猫
こんなイタズラ猫ばかりかといえば、そんなことはない。2年前の2月22日、カンタベリー地方を襲った大地震に恐れおののき、行方をくらましてしまった猫、ボーイは16ヵ月の後に飼い主と感動の再会を果たした。また、震災前を懐かしく思ったのか、地震の影響で引越しした飼い主の新居から姿を消し、川2本を越え、50キロも離れたもとの家に姿を現したジャイロという猫もいる。センチメンタルな面も、猫は持ち合わせているのだ。

ジェイクは、北島はニュープリマスのに保護された野良猫だ。ある老人ホームが里親として名乗りをあげたが、けがをしていた右前足の切断手術をしなければ引き取ることはできない。そこで周辺コミュニティが立ち上がり、募金活動を展開。最後には手術代をはるかに上回る寄付金を集めることに成功し、無事ジェイクはホームにやってきた。以来お年寄りたちは、彼と触れ合うことで安らぎを得、会話に彼の名がのぼらないことはないそう。また足を一本なくしたジェイクも皆にかわいがられ、理想の家を見つけることができた。

個性豊かで、仰天させられたり、頭を抱えさせられたりすることもあるけれど、多くのニュージーランド人は、猫に深い親愛の情を抱いている。猫がいなくなったりしたら、この国の人たちはどうなるだろう。皆、精神不安定に陥るのではないか。

モーガンさん、それでも猫を駆逐してしまいたいですか?


クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。どんな動物も大好きだが、猫は特別。記事中のモーガン氏のキャンペーンにはまだ続きがある。首都ウェリントン郊外のカローリを、国内初の「猫の外出禁止」の町として提案、住人と話し合ったニュースを聞いて、先月は目をシロクロ!