第5回 シナクテイイコトするチカラ

若いっていいなぁ!

目頭が熱くなるような青春の姿を見た。50歳を過ぎて今さらだけど、「わたしは、これほどひたむきに何かにチャレンジしたことあったかな?」と、自分の若いころを振り返ると、目の前にいる彼らが眩しく感じられる。彼らとは、我が家に連日集まって来る息子の仲間の大学生たちのことだ。

三男は音楽を専攻する大学生だ。サモア時代、8歳でギターを手にして以来、小学生のころから兄の結成したロックバンドでギターやドラムを担当し、ミドルスクールからハイスクールまで吹奏楽とジャズバンドでトランペットを吹いてきた。作曲やアレンジも好きになり、曲作りに必要なミキシングやレコーディングスキルも独学で身につけていった。そんなふうに、学校でも家でも音楽を楽しみながら生きてきたため、いざ大学で何を勉強しようという段階になったとき、「他に思いつかないから」というノリで、”Music Major” (ミュージック・メジャー)となった。

つまり、学問として音楽を勉強したいという立派な志があったわけではなく、「楽しく演奏していれば大学生活が過ぎるかも」と、勘違いして音楽を専攻してしまった大学生といえる。――が、現実は甘くない。望まない課題曲、音楽理論、歴史、初見、聴音……と必須科目にうんざりな様子。好んで受講しているジャズの勉強は必須ではないという皮肉さだ。加えて、他の専攻に比べ、履修すべき単位が多いため、卒業に時間がかかる「効率の悪い専攻」なのである。

それでも、大学で音楽にどっぷり浸かっているおかげで、類は友を呼ぶ。学内のミュージックビルディングは夜12時まで開いている。やる気のある学生は深夜までスタジオで練習に励む。ジャズバンドの仲間とジャムしているうち趣味の合うミュージシャンが見えてくる。

「自分の音楽をプロデュースすること」が目標の息子が、「無駄と思える課題にあっぷあっぷしているだけでは貴重な時間がもったいない!」と思ったかどうかはわからないけど、今年に入ってから、今の仲間でアルバムを作りたいと切望し始めた。

そんな話に、青春真っ只中のミュージシャンたちが飛びつかないわけがない。バンドメンバー7人が連日集まり、多忙な学業の合間をぬってCDデビューに向けて動き出した。7人のうち5人がジャズバンドに所属、そのうち4人は音楽専攻、ゴスペルが得意でアカペラグループのリーダー的存在の男性ヴォーカルと、「ママもヴォーカリストなの」という、美しい声の女性ヴォーカルが加わってSplice(スプライス)は誕生した。

お寿司をつまみながら休憩中♪

やる気満々でも一日は誰もが24時間。アメリカの大学は夜のクラスもある。バイト、宿題、課題に追われながら、学業とは関係のない活動を続けることの難しさといったらない。結局、早くに集合できない日は夜の11時頃から寝る間を惜しんで、活動するというありさまだ。深夜1時というのに階下では若者の笑い声が響き、真剣な歌声、サックスにトランペットにギターにベース、そしてドラムが鳴り響くという日が続いた。

曲作りも録音も順調に進んだものの、全員が貧乏学生なので制作にかける資金がない。ただ、スタジオは我が家の地下だし、ミキシングや録音に必要な機材は息子が、バイトやギグで貯めて買ったものが使える。本来、制作にいちばんお金がかかる部分が自前なので、最低限のCD生産代金と楽曲を配信するための費用が調達できればなんとかなるという。

頭を捻った彼らは、最近流行っているキックスターター(※)を利用し、プロジェクトを応援してくれるスポンサーを募った。目標額に定めた$750は公表からたったの12時間で集まり、最終的には目標達成率163%、$1,226の応援資金が寄せられた。

デビュー・アルバム "Take Time"

アルバム” Take Time”は、めでたく4月20日にリリースされた。どの曲も7人の個性がほどよくミックスしている。ポップな曲から、大人のムード溢れるジャジーな曲までバラエティにとんでいる。それぞれのパートのソロも聴かせてくれる。3歳からスティックを握っているというアンディのドラミングの軽快さも心地よく、どの曲聴いても自然と体がリズムをとっている。

CDデビューを記念し、ライブコンサートも催され、迫力のある生演奏が会場に響き渡った。常にギグ(※)をこなしている彼らにとって、人前で演奏することはお手のもの。ライブでは、演奏力もさることながら、全員の魂がひとつになって、若さみなぎる情熱が感じられた。それが熱気とともに伝わった瞬間からオーディエンスは総立ちとなった。このプロジェクトの一部始終を間近で見てきたわたしは、震えてくるほど感激した。

7人の持ち味が大いに発揮されたコンサートだった

なにより、「誰にも命令されていない、しなくてもいいこと」を「自分たちにとってすべきこと、したいこと」として、全身全霊を傾け形にしたことは大学の勉強以上に意義あることだと信じたい。できたアルバムは、メンバー全員、そしてそれを応援した人たちみんなの宝物となることだろう。これはゴールではない。この先どんな道を歩んでいくかはわからないが、成し遂げたことでスタート地点に立ったのだと思う。彼らの未来と青春に乾杯!

※キックスターター(Kickstarter)―米国で2009年に設立された民間非営利企業。ウェブサイト上で、クリエイティブなプロジェクトに向けて個人などから資金を募りプロジェクトを遂行させるといった、クラウドファンディングによる資金調達を手助けするサービス。http://www.kickstarter.com/

※ギグ―おもに演奏家が使う俗語で、ライブ演奏をしに行くときなどに使う。

リリースコンサートを伝える記事(英語)

椰子ノ木やほい/プロフィール
朝から晩まで音楽を聴いて暮らしているわたしが、大ファンになったSpliceのアルバムは、各国のアマゾンiTunes などで試聴できます。米国及び世界のSpotify ユーザー(日本は不可)は無料で聴けます。10曲のオリジナル曲の合間に入る4つのInterlude(間奏曲)は彼らのアイデアで、和気あいあいと録音しているときの行き当たりばったりな様子をそのまま収録。13番目、Interlude 4:The Poetで“Spaghetti  time” と聞こえるのは、録音中とは知らずに、わたしが“Spaghetti is ready!!”と叫んでしまったというのが裏話♪