184号/西川桂子

昨年末ごろから、やれ下血があった、転んで頭を数針縫ったなど、父の健康状態が芳しくない。2月には数週間、検査入院をしたのだが、母が亡くなってから、日本で一人暮らしを続けている父。これまで自分で何もかもやっていたのに、入院して、看護師さんにあれこれ世話をしてもらったのが悪かったのか、点滴を勝手に外したり、「今すぐ退院する」と言い出したりして看護師さんを困らせたあげく、「認知症なので、転院してください」と病院から連絡があり、弟と私を慌てさせた。

弟は「物忘れは年々ひどくなっている。でも、認知症ということはないと思う」という。「やっと退院して、一息ついたところだから、少し様子を見て、やはりおかしいという場合にはお医者様に相談しよう」と二人で決めた。

さらに父が約4週間と長期で、遊びに来てくれた。バンクーバーの夏は、7~8月の平均気温が22度程度、湿度も低く快適だ。療養には最適だし、私もじっくり様子がみられるので、認知症の懸念についてお医者様に早めに相談すべきか、見極めることができるかもしれない。

この後記を書いている時点で、父が来加して3週間目だ。物忘れ外来のお世話になるほどではなさそうだが、毎日のように同じ質問をされて辟易することも多い。つい「昨日も言ったけど……」と、言わずもがなの一言を付け加えて後悔する。私も良い歳だし、もう少し優しい娘になりたいものだ。

(カナダ、バンクーバー在住/西川桂子)