第8回 ノラリクラリとコシアゲテ

夫婦でふらっと、カナダ、オンタリオの風に吹かれにドライブに行ってきた。

ポートヒューロンのカナダと米国の国境付近

ミシガン州は、湖を挟んでカナダのオンタリオ州と隣接。国境を渡ることのできる橋が州内に3か所ある。わが家からほんの3時間も車を走らせればカナダだ。日本で生まれ育ったわたしにとっては、車で橋をわたるだけで別の国に行ける感覚はピンとこないが、国境を抜けるのだからパスポートが必要となる。入国審査所には高速道路の料金所のようなブースがあり、カナダの入国係官にパスポートを見せ、目的と何日滞在するかなどの質問に答えれば通してくれる。

コーン畑には風車が乱立。風力発電に力を入れていることがわかる。

そこが国境だとわかる目印としては、米国側には星条旗が、カナダ側にはカナダの国旗がたなびいているぐらいのこと。カナダに入っても、目に入る店の看板は、米国の巨大資本のチェーン店ばかりで特に異国情緒は感じられない。まっすぐな道をひたすら進んでも、ミシガン州内と同じようなコーン畑ばかり。雄大と言えなくもないが、ドライブするにはいたって退屈な景色といえる。

実をいうと、出不精で家にいることが好きなわたしにとっては、長距離ドライブする旅はあまり気が進まない(といっても運転は夫)。子育て中は、親として子どもを楽しませてやりたいという気持ちが何より優先したものだが、その必要がなくなった今、さぁ、夫婦でどこに何しに行きたい?と問うと、わたしには大して出かけたい願望もない。が、夏休みも終盤に入り、まるで子どものように「ねぇ、どこかに行こうよ」と繰り返す夫のリクエストに「ガソリンも高いのに、しょうがないねぇ」と重い腰をあげた。

1白2日のドライブルート

ワサガ・ビーチ沿いの店

気のおもむくままとはいえ目的地はあったほうがいい。とりあえずは、カナダ、ヒューロン湖沿いの人気の高いビーチと定め、グランド・ベンド “Grand Bend”(F)、ワサガ・ビーチ “Wasaga Beach”(D)、ソーブル・ビーチ  “Sauble Beach”(E) を目指した。夏だというのに、最高気温でも23度。暑すぎず快適だ。どこのビーチにも土産物屋や飲食店、モーテルやコテージが並び家族連れやカップルなどが楽しむ夏のリゾート地として賑わっていた。

左からGrand Bend、Wasaga Beach、Sauble Beach

五大湖のひとつ、ヒューロン湖の面積は九州と四国を合わせてもまだ足りないほど巨大だ。淡水ということを除けば波もあるため、海と錯覚しそうだ。この壮大さを目の当たりにすれば、ほとんどの人は感嘆するのだろうが、わたしの場合、ビーチを目の前にすると、自然とサモア時代の海岸で過ごしたときがよみがえる。

3か所のビーチをまわったところで、「どこのビーチがいい?」と夫。

「どこもそこそこだね。やっぱさ、絵的にはココナツの木があってほしいな。それにサモアの海を思い出しちゃうので、この程度のビーチでワォ~というほどの感動はないね」

せっかく遠くまでドライブしてたどり着いたわりには、我ながらかわいくない感想だと思う。そもそも、ビーチというだけで、別の国の海と比べてどうするよ?と自分でツッコミを入れたくもなるが、夫は黙って頷いている。長年、同じ景色をいっしょに見てきたのだから、わたしのセリフに共感できるのだろう。

ビーチを前にするとわたしの頭の中ではこの景色を思い出してしまう

当時は、週末のたび、家族で南太平洋まっただ中の美しいビーチに通った。店もなく、自然のままの海岸があるだけだったけれど、海水浴に釣りに読書と、海風に吹かれながら日没まで過ごしたものだ。青い空にぽっかり浮かぶ白い雲、エメラルドグリーンに光る海面、ココナツの木が天を仰ぐといった光景は、いくら眺めていても飽きないほど美しかった。その記憶があるかぎり、それに勝る“美しいビーチ”としての感動は簡単には得られないことに気づいた反面、体験を共有してきた者同士だからこそ、「分かち合える感覚」の存在を実感した。

そう思うとふだん意識はしていないけれど、夫婦や家族で同じ景色を見たり、同じ本を読んだり、いっしょに映画を見たりといったあたりまえのことが、意外と大切なのかもしれないと思えてきた。とかく、最近は個を尊重するあまり、体験を共有する機会が少なくなっている気もする。単独行動ばかりしていれば、いっしょに感動したり、いっしょにがっかりするなど、気持ちを分かち合うことのない、ただの同居人になってしまうのではないか……?

4人の子育てを終え、やっと夫婦水入らずで旅ができるようになったのはつい最近のこと。どこに行くにも大家族でぞろぞろと移動していた時間が長いので、夫婦だけで身軽に動けるのは楽でもあり、気が抜けたようでもある。が、まだまだ先は長いはずだ。このまましぼんでしまってはもったいない。母という役割の比重が減った分、もう少し妻力、女力(?)に磨きをかけ、もっと、「夫婦の時間を楽しむ能力」を身につけていくのも悪くないかな……などという思いを新たにした。

夫よ、1300kmにわたる長時間の運転お疲れさん。またどこかに連れてってもらってあげようではないか!

椰子ノ木やほい/プロフィール
過ごして来た日々が人を作るのだということを実感する。もうずいぶん昔のこととなってしまったけれど当時のわが家のサモアンライフの様子は、夫が『「最後の楽園」サモアで暮らす』(風媒社)に記している。