第6回 人間を幸せにしてくれる動物から、人間が幸せを奪う権利はないはずなのに

脱法ドラッグのために、動物を実験台として使うことに反対する署名は6万人分集まった

身動きできない狭い檻に押し込まれ、悲しそうな豚、足の踏み場もなく、お互いに重なり合ってバタつく鶏。テレビを見ていると、こんなコマーシャルが目に飛び込んでくる。動物の権利を擁護するグループ、セイブ・アニマルズ・フロム・エクスプロイテーション(SAFE)の工場式農場に反対するキャンペーンだ。

ニュージーランドでの動物福祉は今、どうなっているのだろうか。

現在この国で施行されているのは、2010年に改正された動物保護法(1999年)だ。動物に対する最も深刻な犯罪といわれる故意の虐待に対し、最高5年の禁錮刑か、最高10万NZドル(約820万円)の罰金、もしくはその両方が課せられる。集団であれば、罰金は最高50万NZドル(約4,100万円)にまで上がる。

このほかにも、野生動物法(1953年)や海洋ほ乳類保護法(1978年)がある。どちらも、保護動物を殺した場合、数年の禁錮、または最高10万NZドル(約820万円)の罰金、もしくはその両方をもって罰せられる。これらは日本などと比較すると、かなり厳しい罰則といえよう。

人と共に暮らすだけに犠牲になりやすいペット

最近、国内を震撼させたのが、猫が弓矢で頭を射抜かれた事件。重傷のため、マッセイ大学の獣医学部付属の病院で手術を受けた。奇跡的に、脳に損傷はなく、鼻と眼窩のけがだけで済んだという。

飼い主はこの件を警察に通報、警察はその調査をソサエティ・フォー・ザ・プリベンション・オブ・クルーエルティ・トゥ・アニマルズ(SPCA)に依頼したが、まだ犯人は見つかっていない。

弓矢で攻撃された猫のレントゲン写真。頭を矢で射抜かれている © Massey University

被害にあった家族は1年前にほかの町から引っ越してきたばかりだったが、このショッキングな事件がトラウマとなり、結局もといた町に戻ったという。犯人は他の犯罪も含め、10ヵ月の禁錮に処された。

大切にされるべき希少な野生動物がターゲットに

ニュージーランドでは、数少なくなった野生動物を傷つける人は、イコール「社会の敵」と見なされる。それでも時折、衝撃的な事件が起きる。

8匹の子どもを含む、計23匹のニュージーランド・ファー・シールが、2010年海岸で撲殺された。このアザラシは国の保護動物。男性2人が逮捕され、1人には8ヵ月の在宅拘禁と200時間の社会奉仕活動が、もう1人には8ヵ月の在宅拘禁が求刑された。

環境省のニック・スミス大臣は、この判決を不服とし、今後このような悪質な犯罪を犯した者は刑務所行きから免れないよう、法律をより厳しくすると話す。

反対に、野生動物を愛するがゆえにとった行動が、法律違反だったという例もある。今年の3月、シャチがその子どもと共に、首都の湾内に現れた際、海洋生物学専攻の学生が思い余って、海に飛び込み、一緒に泳いだ。

これは違法。海洋ほ乳類保護法によれば、鯨やシャチから100メートル以内に近づいてはならない。彼らにとり、人間はストレスになるからだ。これに違反すると、最高1万NZドル(約82万円)の罰金が課せられる。

このケースでは、学生が真摯な態度で環境局に事情を説明したこともあり、処罰は免れたが、再度同様の事件を起こしたら、お目こぼしはないそう。

国を支えてくれている家畜に、ひどい待遇

ニュージーランド経済は、第一次産業に依存している。特に畜産業は盛んで、家畜の数は約4,300万匹。家畜でも、その生態に反さない生活環境や待遇が与えられることが保障されている。


先月、2年1ヵ月の禁錮刑が1人に、300時間の社会奉仕活動と5年間の牛の飼育禁止などが今1人に言い渡された。この2人はそれぞれ、115頭、230頭の牛の尾を故意に骨折させた罪に問われていた。

こうした事件とは違い、現在進行形の問題として挙げられるのが、工場式農場の存在だ。鶏の場合、1平方メートルあたり19羽の割合で、全国で約4万羽が窓のない小屋に押し込められている。また雌豚は歩いたり、向きを変えるなど、動物本来の動きを妨げるケージで飼われている。ケージはヨーロッパ圏の一部の国々では禁止されている。自然に動けない状態は、ニュージーランドの法律にも反しているが、政府は禁止を先送りにし、それが動物保護団体の怒りを買っている。

批判を浴びるバタリーケージの代わりとして登場したコロニーケージだが、動きの自由を奪う点では何ら改善は見られない。© SAFE

法改正が予定されるも、中身のないものに?

先のスミス大臣のコメントにもあったように、政府は現在、動物保護法の改正案を検討中で、その法律の成立は来年になる。

しかしその内容には疑問符がつく。工場式農場だけでなく、脱法ドラッグや化粧品生産における動物実験など、動物たちの処遇を脅かす、肝心の案件を禁じていないからだ。

11月上旬発表の、SAFEによる世論調査で、化粧品の動物実験で動物が苦しんでいると認識している人、それに反対する人は各々90パーセント近くに上った。皆、共通の意識を持っているわけだ。あまり行われることがないといわれる、動物保護法改正――意見を述べるだけなら誰でもできる。この機会を逃さず、動物の声なき声が政府に届くよう、実際デモや署名活動に参加するなど、アクションを起こしたいものだ。

脱法ドラッグは社会悪だ。そんなものの人間への安全性を確認するために行われている実験の犠牲になる動物がいるのはおかしいと、多くの人が集まった © Green Party of Aotearoa New Zealand

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。最近よく聞かれる牛の尻尾を故意に折る事件。その痛みは人間が指の骨を折った時のそれに匹敵するそう。少しでも幸せな動物が増えるよう、これからも娘と一緒にSPCAをサポートしていこうと思う今日この頃。