第8回 行きつけの国~その5メキシコ~
メキシコ全土にある難読コンビニ○××○

運び屋でメキシコに行くには2つルートがある。ひとつはアメリカ経由でメキシコに入るというもの。そして、もうひとつは直行便でメキシコに入るというものだ。前者はアメリカの、後者はメキシコの航空会社である。アメリカの会社でもメキシコ行きの便にはスペイン語を話すCA(キャビンアテンダント)が乗っているし、メキシコの会社のCAは英語が苦手である。なので、いずれにせよCAと私のやりとりはスペイン語になる。

するとどういうことが起こるかというと、どちらの便でもメキシコ人用の入国カードを渡されてしまうのだ。ブラジルなど南米には日系移民は多いが、北米メキシコにはそんなにはいない。しかも、チアパス州に榎本移民団が入植したのは明治時代のことだ。子孫に日本人の面影はもはやないだろう。いくらスペイン語を話すとはいえ、東洋人ぶちかましの顔をした、この私のどこがメキシコ人に見えるというのか?

最近になってやっとその謎が解けた。メヒカリというアメリカとの国境の町が、華人が大勢住む古くからの中国人居住地であるようだ。どうもそこの中国系メキシコ人に間違われているらしいという結論に自力でようやくたどり着いた。

長らくガイドブックをつくっていたこともあり、メキシコにはもう何回行ったかわからない。しかし、どれだけ渡墨しても彼の国をわかったような気にはなれない。我が物顔でいると「作麼生(そもさん)!」といきなり問答を挑まれる。件の入国カードのような謎解きの始まり。それがまた説破(せっぱ)するまでにいちいち時間がかかるのだ。

吠えている麻薬探知犬を見たことがあるのは、唯一メキシコ・シティのベニート・フアレス国際空港だけだ。一昨年には第2ターミナル内での銃撃戦で警官3人が死んだ。容疑者2人は麻薬組織とつながりのある悪徳警官らしいが、いまだ逃走中のため、事件の全貌はよくわかっていない。

太陽の光が強い分、落とす陰は暗い。いつまで経ってもこの国には慣れない。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が6年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2014年現在、46カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

以下、ネット上で読める執筆記事
春秋社『WEB春秋』「ここではないどこかへ」連載(12年5月~13年4月)
カジュアルプレス社『月刊リアルゴルフ』「片岡恭子の海外をちこち便り」連載中(08年8月~)
東洋マーケティング『Tabi Tabi TOYO』「ラテンアメリカ de A a Z」連載中(11年3月~)
朝日新聞社『どらく』「世界のお茶時間」ハーブの国の聖なるお茶 Vol.22 ペルー・アンデスのマテ茶(10年2月)
朝日新聞社『どらく』「世界の都市だより」リマのひと マテオの口元ほころんだ(06年11月)
NTTコムウェア『COMZINE』「世界IT事情」第8回ペルー(08年1月)