第1回 ジャーニーを聞きながら

“ドーントストップ、ビリービング……”
80年代に大ヒットしたロックバンド、ジャーニーの “Don’t Stop Believin’”がかかっている。現在もアメリカのカラオケでベスト5に入っているこの曲は、私のお気に入りだ。

早朝の6時半。ここは南カリフォルニアにある病院の、手術室15番。カソリック系の病院なので縁起が悪い“13番”の部屋はない。手術室には窓がなく、外の様子は全く分からない。カリフォルニアの青空が広がっているのか、大雨なのか。密室状態の中、時には世間話や冗談を交えながら手術は進んで行く。

「うちのカミサンを、ショッピングから遠ざけるためにはどうしたらいい?」
「女はみんな買い物好きだから、無理だと思うわ」

外科医が患者に電気メスを入れて切っていくと、肉の焦げるにおいがしてくる。もう慣れたが、最初は不快だった。

今日の手術室温は16度。細菌繁殖を防ぐために低めに設定されており、長時間いると寒さが身にしみる。患者用に暖めたブランケットにくるまるスタッフが出てくる。私たちは全員、スクラブというパジャマのようなユニフォームを着用する。スクラブという言葉は、動詞で使うと“手術前に手をしっかり洗う”という意味になる。医療業界でよく聞く言葉だ。

シャワーキャップのような被り物で髪の毛が出ないようにする。黒髪は目立つので、私は鏡の前で入念にチェック。以前、看護師に怒鳴られたことがあるからだ。そして、手術用のマスクをきっちりとつける。さあ、仕事だ。

まるで拷問に使うようですが、実際に手術で使用する道具です。

一件の手術を実行するのに、多くの人が関わっている。中心となる外科医に加え、麻酔科医、外科医の助手、看護師、スクラブテックと呼ばれる手術器具を出す技師、手術道具を扱う会社の営業担当など。ケースによっては、セルセーバーという血液を管理する技師、研修中の学生が入る。

そして私たち脳神経外科術中モニタリング技師(以下、モニタリング技師)が加わる。モニタリング技師は患者の脳、神経、筋肉から出ている微小サインを、手術の間ずっと見守る役目をしている。これから、このモニタリング技師というあまり知られていない仕事を通じ、南カリフォルニアの病院事情を語っていきたいと思う。

伊藤葉子(いとう・ようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。