192号/西川桂子

昨年、入退院を繰り返していた父に、認知症による要介護認定が下りた。

認知症の疑いが出たのは、下血のため入院した昨年の春だ。希望的観測もあり、物忘れの域なのか、素人の私たちには判断がつかなかったが、入院中、父は何もしなかったために、一時的にぼんやりしていただけかと思っていた。様子を見るために、私が里帰りしたり、カナダに夏の1ヶ月間、招いたりした。7月に遊びに来てくれたときに、「認知症なら治療は早いほうがいい。治らなくても、進行を遅くできる」と、念のため、勧めた物忘れ外来の受診は、夏の終わりにやっと実現した。

初診の結果は問題なしで、胸をなでおろしていたら、1ヶ月ほどして、弟から「CTで調べた結果、やはり認知症」の連絡がきた。

診断が出る前にインターネットで調べたりして分かったことは、認知症になると、「何を食べたかではなく、食べたという事実も忘れてしまう」「迷子になる」「身だしなみがだらしなくなる」などということだった。食いしん坊の父は、食事に関する記憶は良い。きっちりした性格なので、家の中はぴっかぴか。メモ魔で、いろんなことを細かくメモしている。気になることといえば、同じ話を繰り返すことと、やたらとモノを失くすことだったが、私もカギをどこに置いたのか分からなくなって探したりする。年相応のことと楽観視していただけに、ショックだった。

ネット社会で、情報の取捨選択は必要なものの、調べると何でも答えを見つけることができるような気がしていたのが、大間違い。素人があれこれ頭を悩ますより、早期発見・治療のメリットを考えて、最初から専門家にお任せすればよかったと、後悔しきりだ。

(カナダ、バンクーバー在住/西川桂子)