第10回 移民VS国際結婚 (vol.2)

「国際結婚」が「のほほん」?「のほほん」だとぉ――?!!

次男と共に通い始めた外国人向けの児童館「ペルヘケルホ」で友達のブラジル人、アンドレーサがコソボ人の友人たちにいじめられた日のこと。私からその話を聞いた夫は、私やアンドレーサのようにたまたまフィンランド人と結婚してフィンランドに移り住んできた「国際結婚派」などは、祖国の情勢が不安定で移り住んできた「移民」のコソボ人たちに比べれば「お気楽でのほほんとして」いる存在なのだと言い放った。

「お気楽?」「のほほん?」――同じくフィンランド人の夫(ていうか、アナタだ!)と結婚している私には聞き捨てならないキーワード。しかし、その日はもう、怒りに混乱、悲しみなどの様々な感情を行ったり来たりした後だったので、その場で夫に向かって「お気楽ですって?」「なんならアナタが日本に住んでみろ!」と叫んで夫とやりあうほどの気力は残っていなかった。

翌日――予想通り、アンドレーサはケルホには来なかった。私はアンドレーサと約束した通り、ケルホに来て早速メリヤとパウラに、二人が不在の間に起きたいじめの件を報告した。その日はコソボ人達が来るのが遅く、たまたまだったが、3人で話し合う時間が取れたのだ。

ケルホ帰りにアンドレーサと子ども達と良く立ち寄ったカフェの子どもコーナー。母 親たちが話に夢中になっている間に、次男がクレヨンを食べてしまった模様

確かに、アンドレーサは何かにつけ困ったことや不満があると、まずフィンランド語で私に打ち明ける。そして、それができるにも関わらず、ケルホとのコミュニケーションとなると私が彼女の代理人として口火を切るというのは、はたから見ると少々変だ。私とて本来はそんなにご親切な人というわけでもないのだが、在住2年目にして、フィンランド人は無理だとしても、同郷のブラジル人の友達すらいないアンドレーサを放っておくことができず、つい出しゃばってしまうのだ。

すっきりしない気持ちを持てあましながら、ケルホの中を見渡すと、ハズビエが近寄ってきた。

「サチコ、アンドレーサは?」
「来ないって。朝電話したらそう言ってた」
「やっぱり昨日のあれ、まずかったかしらね?」――さすがハズビエ、話が分かる!私は抱きつきそうになって彼女に言った。
「まずいなんてもんじゃないわよ!」と。

時刻は11時半。例によって次男に防寒着を着せて、自分も帰りの身支度をする。その日はハズビエに誘われて、そのままベビーカーを押しながら町の中を歩いた。

「私もねぇ、ミモザのあれは、やり過ぎだったんじゃないかと思ってて」

渋そうな顔をして、ハズビエが低い声で言う。

私達の前にはミモザとシポニアが、やはりベビーカーを押して談笑しながら歩いている。彼女たちは昨日のことなど、アンドレーサのことなど、気にもかけていない様子に見えた。

「あれまずいよ。アンドレーサはもうケルホには来ないかも」
「えっ、でもあれは冗談よ。みんな遊びで言ってて……つい私も笑っちゃったけど」
「……私もよ」
「アンドレーサ本人も笑ってたじゃない?」
「そうなんだけどねぇ……」

友を笑ってしまった傷は、私一人のものでは無かった。希望が湧いてきた私は、早速この後、アンドレーサに電話することを考えた。

気持ちがちょっと上がった私は、尚もハズビエと歩きながらいろいろ話した。というか、話上手なハズビエは、自分のこともたくさん話すが、私にもあれこれときいてくるのだ。そのうちに、私は彼女との会話の中から、夫が言う「国際結婚のお気楽さ」とやらがどんなものかを知ることになる。

靴家さちこ(くつけさちこ)/プロフィール
1974年生まれ。フィンランド在住ライター/ジャーナリスト。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、フィンランド系企業を経て、結婚出産を機に2004年よりフィンランドへ移住。『Love!北欧』『FQ』』などの雑誌・ムックの他、『PUNTA』、『ジャポジェンヌ』『WEBRONZA』などのWEBサイトにも多数寄稿。共著に『ニッポンの評判』、『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』などがある。