第17回 隣のインド人

ロサンゼルスのリトル東京で見かけたウォールペインティング

先日、久しぶりにロサンゼルスへ飛んだ。復路のシンガポール航空11便はエア・インディアとのコードシェアだった。嫌な予感は的中。案の定、隣の席がインド人だった。

アメリカに行くほどなのだから、洗練された上流階級のインド人か、インド系シンガポール人に違いない。しかし、アメリカナイズされたインド人はよけいにやっかいであることがすぐに判明した。シンガポール航空がエコノミークラスでもアルコール無料なのをいいことに、隣のインド人がバドワイザーをガンガン飲み始めたのである。

これまでインド人は乗り物酔いで盛大に吐いているのだと思っていたが、それは大きな間違いだった。よくよく考えてみれば、吐いているのは男性のみで、女性も子供も吐いてはいない。インド人男どもは、飛行機ではなく酒に酔って吐いていたのである。インドでは飲酒を禁じている州もあり、飲酒は罪悪という意識が根強い。だが、ハイソな人はおかまいなしで飲むのである。

あらかじめ特別機内食をリクエストしておかなかった隣のインド人は、カップヌードルを食べていた。メニューは洋食が牛、和食が魚だったが、ヒンドゥー教なので牛が食べられず、魚は食べられるが日本食を食べたことがないという理由でパスしたのだ。インド人は食に保守的なので、外国料理にはまず手を出さない。極端な人はカレー以外のものは食べない。彼らにとってビーフカレーはもっとも罰当たりな料理である。

その日は機内上映で日本統治時代の高校球児を描いた台湾映画を見た。そう言えば、『巨人の星』をリメイクしたアニメがインドで放映されている。大リーグボール養成ギプスもちゃぶ台返しも登場するが、インドの星飛雄馬は野球ではなく、クリケット選手なのだ。さすがイギリス連邦加盟国。

CAがわざわざトングで配っているおしぼりを、隣のインド人はむんずと素手でつかんで私にくれた。もちろん親切心からである。さすがに不浄の左手ではなく、聖なる右手で渡してくれたのだが。無神経なのか、繊細なのか、インド人はやっぱりよくわからない。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が7年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2014年現在、46カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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