第18回 ベトナムの理髪師

ホーチミン市ベンタイン市場で働く女性たちもみんなロングヘア

運び屋のついでにフィリピンで髪を切るのを楽しみにしている。フィリピン人の美容師はだいたいバクラなのだ。バクラとはタガログ語でオカマのこと。フィリピンでは要職についているバクラも多い。アジアではタイと並ぶLGBT先進国だ。体は男性だけれど、心は女性の彼女たちは、とても親切で仕事も丁寧である。先日はプロモーション特価150ペソ(350円くらい)でヘアスパを受けてきた。常夏フィリピンはお湯には無頓着である。当然、美容院でのシャンプーは水だ。ホテルのシャワーもぬるま湯であることが多い。

最近はフィリピンよりもインドネシアへ頻繁に飛ぶようになり、ジャカルタで美容院に行くことが増えた。こちらは英語の達者なフィリピン人とは違い、意思の疎通がちと難しい。しかし、ヘアカタログを指させばあっさり克服できる。サービスで飲み水が出てくるわりには、ヘアスパにヘアドライが含まれなかったりするが、濡れた髪はホテルに着くまでに強烈な日差しでじきに乾いてしまう。

ちなみに、中国では一度もヘアカットしたことがない。中国のホテルにそなえつけのシャンプーで洗うと髪がパサパサになるということもある(それでも、インドのシャンプーよりもはるかにマシなのだが)。ざっくり切られて取り返しのつかない頭になっても、「アイヤー(あーあ)」の一言ですませられそうでどうも気乗りがしないのだ。

ベトナムのハノイで美容院に行ったときのこと。外国人観光客を相手にしている一角にあったその店では、”Short is bad.”とショートヘアにすることをかたくなに拒まれた。「シーク教徒かよ!」と思わずつっこみたくなったが、そこは伸び放題の髪をターバンで巻くインドではなく、仏教国ベトナムなのだった。カトリックのフィリピン、ムスリムのインドネシアでは、注文どおりに短く切ってくれるというのに。ベトナムには長い髪が美しい女性が多いのは確かだ。宗教上の理由なのだろうか。あれはいまだに謎のままである。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が7年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2014年現在、47カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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