第14回 笑わない目、光る歯

海外に暮らすと同じ肌色や髪の毛の人を見かけるとつい観察してしまう。ヘルシンキから30キロ離れたケラヴァでも、ベトナム、フィリピン、タイに中国人と、アジア勢も結構いる。すれ違いざまに軽く会釈をしたり笑みを交わすこともあるが、大抵お互いにベビーカーを押してどこかを目指しているので「お国はどこ?」と聞きあうことは無い。それでもそれとなく雰囲気で、どこの国の人かおぼろげに見当はつくものだ。

ベトナム人は難民として長く住んでいるからか、外国人的なオーラが薄く、仕事もしているので、仲間と群れている様子は見られない。フィリピン人は大抵自分の子どもに英語で話しかけている。共通語として英語も多く話される国ではあるけれど、母国語で話しかけなくてもいいの?と思いつつ見ていると、たまに同伴しているフィンランド人の夫らしき人とも英語で話しているので、家庭内が英語圏なのだと納得する。タイ人女性は、フィリピン人女性同様に結婚を機に移住してくる人が多いが、大抵子どもにはタイ語で話しかけており、日中に仲間同士ベビーカーを押してにぎやかに街中を闊歩している。

タイでも年中咲いていたブーゲンビリア。鮮やかな花咲き乱れる常夏の国での思い出は、今でも鮮烈に残っている。

しかし、どの集団にも「群れない人」がいる。とりわけ海外進出を企てて実行するようなタイプは、母国という集団からはみ出している。ゆえに、自身も含めて海外で外国人として暮らしている人には変わった人が多いなと思っているのだが、その変な人達の群れからもさらに突き出ている人がまたいるのだ。そのコントラストは、同郷の者同士を集めてみると分かりやすい。タイ人女性の間では、例のコソボ人達と仲が良いハイテンションな古株と、新入りながらもくっきり存在感を放つヴィライが目立っていた。

古株は、ケルホでの外国人仲間との国際交流が何よりも楽しみであるようで、後から入ってきた同郷のメンバーがそのインターナショナルな環境を台無しにするのを邪魔くさそうにふるまっていた。そういう彼女の気持ちもわからないでもない。ケルホの魅力は、外国人同志つたないフィンランド語で話して、話が通じて仲間ができる、そのプロセスなのだから。その一方、古株も顔面一杯で微笑んでいても、目の表情は冷たい人だった。フィンランド語で誰彼と話しかけて、興奮してくるといろんな人と手を握ったり、ハグもしてくるのだが、その感触はふわふわっと上滑りで指先も冷たい。

そんな古株を見て、子どもの頃に住んでいたタイで、ホテルのディナーショーを見に行った夜、トイレに居合わせたダンサーのタイ人女性達のことを私は思い出していた。どこで教わったのか、「カワイー」「カワイーネ」と口々に日本語で言いながら、私と姉に微笑みかけ、頬や肩に触れてきた彼女たちの中にも、サービス業特有の滑らかさでそうする人と、子ども好きで心から微笑みかけてくる人に分かれていた。古株は前者を思い起こさせた。そのイメージが付きまとうからか、古株がフィンランド人の夫の話をする時も、「ミエス(=フィンランド語で夫)がね……」と笑いながら語る彼女の眼の色がどことなくうつろなのが気にかかった。

ヴィライの方はもっとわかりやすかった。ケルホのみんなで夏休みの予定を話していた時、パウラが「タイまでって、航空運賃高いの?」と聞いたら「高いなんてもんじゃないわよ、大人一人1000ユーロ! うちは子どもが二人いてもう一人が2歳以上だから、合わせて3800ユーロもするのよ! 実家は狭いし、夫は毎日タイ料理食べ続けたらお腹壊しちゃうからホテルに泊まるじゃない? そうしたら宿泊代が2週間で……」里帰りにホテルなどには泊まらなさそうなアプリとゴイがあんぐり口を開けている。「それに、一度里帰りしたら親兄弟にお金を配らなきゃならないから、それが7人分でしょ? もう、ほんっとに夫サマサマだわ!」彼女がそろばんの読み上げ算のごとくまくし立てた後、私は彼女の口の中が光ったのを見逃さなかった。目を凝らしてよく見てみると、歯にピアスのような飾りがついている。

その後もケルホでは、ヴィライの一家総出でドイツまでキャンピングカーを買いに出かけた旅の話、車が税金も含めてフィンランドではどれだけ高く、ドイツで買うのがどれだけ賢いことなのかをよどみなく聞かされた日もあり、スウェーデン往復のフェリーのビュッフェでたらふく食べ、船内の免税店で買ったというバッグを見せびらかされた日もあった。それら全てにかかった金額をスラスラ羅列する彼女を「ある意味優秀だなぁ」と思いながら眺めていると、例の歯がキラキラ光る。

そういう日に限ってアンドレーサが欠席していることが多かったのだが、それは幸運なことだった。この読み上げ算大会みたいな日にもしアンドレーサが居合わせたら、帰り道にはさも軽蔑したようにヴィライを酷評したことだと思う。そうでなくても褐色の肌に黒髪のアンドレーサは、カタログ見合いで嫁いでくるタイ人女性達と自分がいっしょくたにされないかと日常から気にかけていたし、それとはまた別の理由でもヴィライを警戒しているようだった。

靴家さちこ(くつけさちこ)/プロフィール
1974年生まれ。フィンランド在住ライター/ジャーナリスト。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、フィンランド系企業を経て、2004年よりフィンランドへ移住。『Love!北欧』『FQ』などの雑誌・ムックの他、『PUNTA』、『WEBRONZA』『ハフィントンポスト』などのWEBサイトにも多数寄稿。共著に『ニッポンの評判』、『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』などがある。※Gakken Interior Mook『北欧ヴィンテージとセンスよく暮らす』では北欧3か国からの取材執筆を担当。好評発売中です!