208号/プラド夏樹

私が暮らしているフランスで、7月は一学年の終わりにあたる。学年末試験の結果が発表され、進級できたか、希望校に合格したかどうかがわかる時でもある。親たちがそんな会話を交わす時期である今、周りに、18歳以上の「引きこもり」が年々増えていることに驚いている。大学や専門学校を中途退学し、好きなことをするならまだしも、「何をすればいいのかわからない」と言いながら実家に引きこもっている若者たちだ。アルバイトもせず、起きてこない、何にも興味がない、恋人もいない。

失業率が年々増え、経済状況が悪くなるにつれ、親たちは「おまえの人生だ、好きなことをしろ!」と啖呵を切れなくなった。子どもの将来がより安全なものであることを願い、「良い学校に行かないと失業するよ」と自分の心配を投影するようになった。平凡な親のひとりとして、私もそんなつまらないことを言った憶えがある。でも、 なにもかもが保証された人生や、収入に困らない職を得られるようになるだけのための勉強、そんな「安全人生」を想像して無気力になってしまう子どもの気持ちもわからなくない。

今回の地球丸は、とくに自分の人生を「創る」人々が光っている。ペルーの石彫家である青木通子さん、オーストラリア横断旅行中にキャラバンに軽油を入れて出発してしまう香川さんカップル、どちらもある意味で「安全人生」から外れた、でも、自分が今したいこと、言いたいこと、表現したいことを感知する力をもった人たちだ。

「石は一度切ったり穴を開けたりしたら戻せないし、どうなるか分からない。分からないところに自分を置くのはとても怖い。暗闇に入っていくような不安や恐怖があって……。それでも、前に進むことしかできないのです」(ペルー移住物語 原田慶子- ただひたすらに石を穿つ 後編から)。

引きこもりする若者たちが探しているのは、後戻りできない崖っぷちに自分を追い詰めてみて初めて感じられる、こんな強烈な瞬間なのではないだろうか? 年間学費が8000ユーロもする学校を中途退学した愛息子の引きこもりに困り果てているママ友に読ませたい。レールに乗ってするーっと進む人生なんてつまらないと。

(フランス・パリ在住/プラド夏樹)