第2回 日本人だからボランティア 学校編

私が住むニュープリマスは従来の農業だけでなく、昨今は油田開発に伴う産業で潤う町だ。石油や天然ガスの掘削・生産に伴う技術者は海外からやって来ることも珍しくなく、家族と共にやって来て、当地に居を構える。ニュージーランドには「インターナショナル・スクール」などはないので、どの国出身だろうと、子どもたちは地元の学校で、地元で生まれ育った子と席を並べる。

日本文化体験は、異文化に親しむ第一歩

国際化は学校でも進んでいて、娘が通う、町から出てすぐのところにある全校生徒約170人の小さな小中学校にも、いろいろな国出身の子がいる。日本はゲームなどのテクノロジーの先進国として、子どもたちにとって身近な存在。と同時に、歴史の若いニュージーランドとは違い、古くからのしきたりを重んじる国でもあり、子どもたちに紹介する最初の「外国文化」としてうってつけといえる。

私が学校のボランティアとして、最初に日本文化を紹介したのは、小学校1年生のクラスでのこと。毎年3学期になると、子どもたちは翌年のカレンダーやカードに添える絵を描く。その絵の横に各自の名前を漢字で書いてほしいと頼まれたのだ。いわゆる当て字をするわけだが、私はできるだけ女の子には、優美さや可憐さを表す漢字を、男の子には勇敢で頼もしい意味合いを持つ漢字を選ぶようにした。子どもたちはまだ小さく、ピンときていなかったが、親は一文字一文字どういう意味なのか尋ねてきて、興味津々だった。

子どもたちが絵を描き、私が日本語で名前を添え書きしたカードのひとつ

また別の機会には、同じ学年の子どもたちにお箸の使い方を教えた。トリビアを交えながら、持ち方を説明。子どもたちはお箸を使って、ひとつのお皿の上の小さなマシュマロを、別のお皿へ移すことにトライ。先生も飛び入りして、おおいに盛り上がった。自宅で食事の時にお箸を使い始めたというある家庭の話、早食い防止にお箸で食事をさせたら大成功だったという話など面白い後日談にも事欠かなかった。

経験することに意義がある

小学校3・4年、5・6年のそれぞれのクラスでは、日本語を教えた。3・4年生には、先生の要望に沿い、教室の中で使う単語や会話を教えた。朝出席を取る時、先生が名前を呼ぶと、「オハヨウゴザイマス」と返す子が増えたり、私を校内で見かけると「コンニチハ!」と声をかけてくれる子も出てきて、微笑ましく思った。

また5・6年生のクラスでは日常会話に加えて、折り紙、習字などにも挑戦してもらった。担任の先生と良い連携が取れ、大成功だったのは俳句の授業。まず私が、日本人にとっての季節の重要性を説明し、俳句とはなんぞや、そして有名な日本の俳句を紹介した。俳句は英語でも作ることができるので、後担任の先生が引き継ぎ、みんなで一句ひねった。音節は五七五という決まりがあるにも関わらず、誰もがあっという間に良い句を作り上げたので、びっくりした。

さらに同じクラスの子どもたちを連れて、町にある本格的な日本の茶室を訪問した。正座にチャレンジし、茶道のルール、着物や家屋の説明を聴く。着物姿の日本人女性にお茶をたててもらったが、残念ながら各人がお茶をいただく時間はなかった。代わりに抹茶の香りをかがせてもらうと、神妙な顔をする子、顔をしかめる子、にこっとする子……。見ていて、くすっと笑ってしまった。締めくくりに干菓子をいただく。これまた好きな子も、嫌いな子もいた。日本人の私にすれば、好いてくれればうれしいけれど、結果はどうあれ実際に試したことに意義があるはずと考えた。

味覚だって文化のひとつ

娘の学校では、書籍や教育玩具などの購入資金調達のため、ボランティアの親が金曜日にランチを作り、売っている。メニューのひとつに寿司があり、作る時に私も一肌脱いでいる。種類はテリヤキチキン&野菜入りと、スモークサーモン&アボカド入り。寿司が好物という子どもも多く、数人のお母さんが毎回合計70本以上を巻く。1本を6個に切るのだが、それを12個食べる男の子もいて、作り甲斐があるなぁと感じつつも、ちょっとその子のおなかが心配になったりする。

ランチが寿司の時には子どもたちだけでなく、先生たちもこぞって注文。これはほかのメニューの時にはないことだ © Noay Saito

こんな風になかば楽しみながら、約8年間にわたってちょこちょこと小中学校で日本文化を教えてきたが、ついこの間、あるお母さんからうれしいお言葉をいただいた。彼女の息子は今年卒業し高校に進学、第二外国語として日本語を学んでいる。「あの子が日本に興味を持って、日本語を勉強しているのは、あなたが小中学校で日本文化を教えてくれたからなのよ」ボランティア冥利に尽きるコメントだった。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。ニュージーランドでボランティアをする人の60パーセントが女性。学校でのボランティアも母親が中心だが、力仕事などは父親が喜んで請け負ってくれる。