212号/河野友見

9月、大雨により茨城の鬼怒川が氾濫して大洪水が発生した。次々と家屋が倒れて濁流に飲み込まれる中、仁王立ちで毅然と立っていた白い家がある。あの白い家に堰き止められた家屋の屋根にいた夫婦と二匹の犬、白い家の後ろで電柱にしがみついていた男性など、多くの命を救ったと言われ、ネット上ではすぐに白い家を建てたメーカーが特定された。その住宅メーカーは瞬く間に賞賛を浴び、私も「本当に頑丈に建てているんだな」と感心したのだが、なんと、それから1か月後に、そのメーカーと同グループの会社が杭打ち改ざんデータ事件を起こしたことが発覚したのだった。わずか1か月で、そのグループ全体の信用は失墜したのだ。

大手不動産会社と大手建材会社が携わった建築物の杭打ちデータ改ざん事件は、日本の社会に大きな衝撃を与えた。

マンションを支える杭のひとつが基礎構造に届いておらず、宙ぶらりんらしいというニュースは、そのマンションに住む当事者でなくとも、聞くだけでぞっとする話だ。

私も築10年になるマンションに住んでいるが、こんなに大きくてがっしりした鉄筋コンクリートの建物に欠陥があって傾くかもしれないなどと、想像したこともない。ニュースになっているマンションや集合住宅に住まう方たちの心情を思うと、お気の毒で仕方がない。

一体、なぜこんなことになったのだろう。データを改ざんしたのは派遣社員だった、期日までに書類を提出しなくてはならなかった、親会社からの圧力が大きかった、納期に間に合わせなければならなかった……。色々と原因が語られているが、そのどれもがまっとうな理由だとは思えない。特に、派遣社員だったから、などというのは酷い言いぐさだ。残念だが、どうやら「派遣社員は適当に仕事をするのだろう」と考える人も世の中にいるのは今回の件で明らかだ。こうした職業格差を作りたがる日本社会。親会社が請負の子会社に圧力をかけるという悪しき習慣が各業界で当たり前となっているのも日本社会ならでは。締切を守らなくてはいけない、納期は絶対、という真面目一徹なところは日本人らしい勤勉さではあるけれど、締切を守るために適当な仕事をするなんて、どんな業界でも当たり前のことだが大きな間違いだ。ましてや人の命に関わるかもしれない建物の施工なのだから、なおのこときっちり仕事をしてもらわなくては困る。

色々な意味で、私には日本社会らしい事件だと思わせられた。

あの鬼怒川決壊地帯の白い家は確かに頑丈だった。それは多くの国民が生中継で見て知っている。だからこそデータ改ざん事件は残念だし、適当な仕事をしたのはほんの一握りの人たちだったと信じたい。

それにしても、持ち上げて賞賛していたのにあっという間に手のひらを返して騒ぎ立てるマスコミやネットも、これまた日本社会らしいとは言えないか。

これから寒い季節がやってくる。該当のマンションに住む人たちが気持ちの上で少しでも温かい冬が過ごせるよう、事件に携わったメーカーは「日本人らしい」誠実な対応をしてほしいと切に願う。

(追記)
この記事の編集中に、フランスのパリで同時テロ事件が発生しました。亡くなられた多くの方に深い哀悼の意を表すとともに、どうか、一刻も早くこの報復の連鎖が止まるよう願うばかりです。Pray for Paris.

(日本・広島在住 河野友見)