第3回 自分のためにお金を集める
ファンドレイジング用のチョコレートバーと儲け。資金集めは世の中のことを知るのに良い機会になるだけでなく、お金が絡むので、計算の良い練習にもなる

ファンドレイジングというと、「知らないけれど、世の中にいる困っている人を助けてあげるため」の活動というイメージがないだろうか。例えば、「ピンクリボン・デー」に街角に立って、寄付集めをする。学校でガーラ・デー(日本でいう学園祭。1年で一番多くの寄付を得ることができるイベント)を開く。恩恵を受けるのは、前者の場合は乳がん患者や研究団体、後者の場合は、息子や娘が通っているにしても、学校という組織で、自分自身ではない。しかし、自分のために自らが募金活動をするのも、ニュージーランドでは決して珍しい話ではない。

努力して集めたお金を使って修学旅行へ

ニュージーランドの小・中学校生活のメインイベントといえば修学旅行。日本でも同じだろう。しかし、日本と違うのは旅費の支払い方だ。日本だったら、問答無用で修学旅行費を親が全額負担する。しかし、ニュージーランドでは、チョイスがあり、親がすべて負担しても良いし、ファンドレイジングで賄っても良い。

どちらを選ぶかは親の考え次第。しかし、クラスのほとんどが後者を選ぶ。必ずしも経済的な理由からではない。親は「社会勉強」の場と考えているからだ。修学旅行に行く年齢ともなれば、旅行には、お金が必要で、お金を得るためには時間と労力がかかるということが理解できるはず。子どもに社会のからくりを教えるのに絶好のチャンスなのだ。

学ぶことがたくさんある、校外での活動

校外でお金を集めるには、見ず知らずの人に話しかけなくてはならない。これは難しいことだ。そして、初対面の人にお金を出してもらうには、自分がどこの誰かを手始めに、修学旅行費のために資金集めをしていること、どこへいつ行くのか、何が楽しみなのかなどといった旅行の情報や自分の考えを話す必要がある。このような経験は、もう少し大きくなると機会が増える「人前で話す」時に役立つ。もちろん勇気と度胸がつくのは言うまでもない。

うまく事情を説明できても、必ずしもその人が寄付してくれるとは限らない。寄付してくれる人もいれば、してくれない人もいる。考え方はさまざまだし、タイミングの良し悪しもある。世の中にはいろいろな人がいるものなんだな、と子どもは感じ取ることができる。

旅行と共にファンドレイジングも思い出に

娘が修学旅行に行った時には、旅行に行く1年ほど前から、資金集めの計画を練り始めた。活動内容の大枠は親が考えたが、後は子どもが主役。アイデアに肉付けをし、中心となって実行した。

ある時は校内でディスコを開いた。子どもたちは飾りつけなどの会場の準備をし、DJをこなし、会場内でお菓子やジュースなどを売った。またある時は、近隣の一家庭から、庭の整備をしてもらう代わりに寄付をとの申し出をもらい、皆で泥まみれになって作業をした。チョコレートバーを売り歩いた時は、誰がどれだけ売ったか競争したりもした。

結局、今回は旅費全額を寄付金で賄うことはできなかったけれど、社会勉強だけでなく、子どもたちにはたくさんのメリットがあった。修学旅行費を少しでも自分で捻出しようという同じ目標に向かって力を合わせたクラスメイト同士の連帯感、そしてそれを達成した充実感とプライド。子どもたちにとっては、修学旅行のみならず、ファンドレイジングも忘れられない思い出になったに違いない。


クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。雑誌、ウェブサイトを中心に、文化、子育て・教育、環境、ビジネスといった分野で執筆活動を行う。