第5回 スポーツ選手の育成に貢献する学校

もうひとつ忘れてはならないのが、娘が大好きな体育の授業だ。

ポーランドでは9月の新学年開始を前に、毎年「体育の授業に参加しよう!」と声高に呼びかけるコマーシャルやポスターを目にするようになる。運動が苦手で、何かと理由をつけて体育の授業に出席しなかったり、見学だけしかしない児童が多いのが問題になっているとのこと。ゲームやパソコンに夢中になるあまり、外で遊ぶ子が少なくなったことによる最近の新しい問題かと思えば、夫が子どもの頃には既にあったというから驚きだ。その一因には授業内容がつまらないというのもあるとか。

体操着の広告と共に、体育の授業に参加することの大切さについて書かれた記事

運動はできる方ではなかったが、水泳は得意で体育が好きだった私と、学校の授業には失望していたものの、体を動かすのは好きで、小学生の時に空手やフェンシングを習っていたという夫。娘には体育の授業をサボるような子になって欲しくない、スポーツ全般を体験して、運動する楽しさを知って欲しいと思い、歩いて5分のところにある学区内の小学校ではなく、敢えて“スポーツ小学校”を探すことにした。

“スポーツ小学校”とは、スポーツ大会で活躍する選手を輩出することを目指す学校のことで、もちろん体育の授業に力を入れている。同様の学校の中には、特に男の子に人気のあるサッカーを専門にするところが多いのだが、その中で思いがけず柔道とアクロバットという2種目を看板に掲げている小学校を発見。常々娘にもうひとつの“母国”の文化も経験してもらいたいと考えていた私たちは、学校のホームページにある“Judo”の文字に胸をときめかせた。バスを利用して30分かからずに行かれる距離は、通学圏内といえた。春の公開日に出向いて校内を見学し、校長先生や柔道の先生とお話しさせて頂いたことで好印象を抱いた私たちは、この学校に通わせることに決めたのだった。

1年間の柔道の授業の成果を5月の学校祭で発表。来年度に入学するかもしれない近隣の幼稚園生の前でも柔道のデモンストレーションをしたとか

娘の学年は、アクロバットクラス、柔道クラス、普通クラスの3クラスに分かれている。柔道クラスで週2時間の体育の授業を指導してくださるのは、柔道の先生。今年73歳になるおじいちゃん先生だが、1968年と1969年に欧州選手権70キロ級で銅メダルを獲得し、1990年代にはデンマーク代表監督も務め、現在7段というスゴイ人なのだ。

ただ、本格的に柔道の授業が入るのは4年生から。1年生のうちは柔道に関する授業は柔道着の着方、帯の締め方、受け身、寝技くらいで、そのほかは前転、後転などの体操に、サッカーやバスケットボールといった普通の体育の授業だとか。それでも、柔道の先生が指導されているだけあって、1年生も終わりに近づくにつれ、柔道クラスの子どもたちはほかのクラスに比べて行儀よくなったように見える。武道はしつけにも最適なようだ。

一方、日本の体育の利点はやはり様々な競技に取り組めるところだろう。

昨年の秋、日本の小学校を初めて訪れたとき、娘は校庭の隅にあるプールを見つけて目を丸くしていた。ポーランドの学校にはないものだったからだ。日本滞在が10月~2月だったために、プールを使うことのないまま日本を離れなければならなかったことをよっぽど残念に思ったのか、夏休みになってからはことあるごとに「学校のプールに入りたかったな」とつぶやいている。

広い校庭や体育館で思いっきり走り回れたことも、目新しいことだったようだ。というのも、ポーランドで通う学校で体育の授業が行われるのは主に100平方メートルほどの広さの柔道場。体育館はあるものの、アクロバットの授業用の大きなトランポリンが置かれており、使用するのはアクロバットクラスの児童だけ。校庭には遊具はあまりなく、それほど広くもない。体育に関していえば、確かに日本のほうが数段充実しているように思われた。

そんな日本で気に入って覚えてきたのがなわとびだ。過ごしたのがちょうど冬でなわとびの季節だったということもあるが、友達と後ろとびやあやとび、長なわをしたのが楽しかったようで、今でも持って帰ってきたなわとびで遊んでいる。

これから学年が進むにつれ、難しいことが増えていくだろうが、せっかくスポーツ小学校に入ったのだから、文武両道を目指しつつ、心身ともに健康に育ってもらいたいと願っている。

スプリスガルト友美/プロフィール
ポーランド在住ライター。8月9日、娘は8歳の誕生日を迎えた。北京オリンピック開会式の翌日に生まれた娘は、この記事を執筆している今、私の隣りで3度目の夏季オリンピックを楽しんでいる。今回は一緒に日本とポーランドの応援をできるようになっていて嬉しい限りだ。4度目は母国での東京オリンピック。親子そろって柔道の試合を現地観戦できたらいいなと今から思っている。ブログ「poziomkaとポーランドの人々」