第10回 くんち
長崎くんち ポスター

蒸し暑く雨の多かった今秋も10月に入ると爽やかになった。長崎で秋といえば毎年10月7、8、9日にある大祭、長崎くんちを真っ先に思い浮かべる。「くんち」の語源は日付の「9日(くにち)」といわれ、地元では敬意を込めて「おくんち」とも呼ぶ。382年の歴史があり、江戸時代は日本人と一緒に長崎の中国人やオランダ人もくんちを見物、出島にいたドイツ人のシーボルトやケンペルも著書で言及している。長崎と海外の文化が融合して生まれたきらびやかな演し物の数々に、見物客も「モッテコーイ」(アンコール)、「ショモーヤレー」(もう一回)、「ヨイヤー」と大きな掛け声で盛り上がる。賑やかで勢い溢れるくんちは、一度見たら「じげもん」(地元の人)でなくてもすっかりはまってしまう。

 

 

諏訪神社

くんちの舞台は長崎市中心部からやや北にある諏訪神社(すわじんじゃ)で、ここの神様がお神輿で市内の「お旅所(たびしょ)」へ「お下り」し、その後「お上り」して本殿に戻られる際、その年の「踊町」(おどりちょう)が披露する伝統的な奉納踊りが見どころである。踊町は江戸時代から続く町々(現在59町)を7つに分けた組で、毎年順番に奉納を担当するので、くんちの演し物をすべて見るには7年かかる。2人の遊女が神社で舞ったのが奉納踊りの起源だが、徐々に複雑で華美、勇壮な演出が登場し、時代ごとに変遷して長崎の人々に受け継がれ、現代の形になった。

くんちが盛んになったのは江戸幕府がキリシタン禁制に力を入れた時代でもある。かつて長崎はキリシタン大名からイエズス会に寄進されたほどキリスト教信仰の中心地だったが、禁教で弾圧が開始され(第3回「殉教の丘」参照)、鎖国下でも唯一海外に開港されていたこともあり、庶民の関心をキリスト教から逸らす狙いがあった。幕府の天領(直轄地)となって長崎奉行が置かれると、奉行は諏訪神社を重視してその神事であるくんちを積極的に支援した。

 

 

川船

歴史はさておき、長崎さるきでくんちを見る方法について。本格的に見たいなら6月売り出しの桟敷席(諏訪神社やお旅所など踊場の観覧券)を買う。しかし高価ですぐ売り切れることがほとんど。でも大丈夫、くんちの3日間に街中をさるけば、踊町が行く先々で踊る「庭先回り」を誰でも自由に見ることができる。「庭先回り」は事前にスケジュールが組まれ、いつどこにどの踊町がいるか発表されるし、インターネットでも最新情報がわかる。踊町の面々は勢揃いで数十人~百人近くの行列になり、繁華街、官公庁、駅の広場、古い町並みの大きな住宅や老舗商店などをいくつも回って踊るので、見物客が大勢集まってくる。

演し物は、やはり異国情緒を感じるものが珍しくて楽しい。「阿蘭陀万歳(おらんだまんざい)」は白塗りに洋装でオランダ人に扮するコメディだが、出島の時代を思わせる。「じげもん」なら幼少時から見慣れている中国風の「龍踊(じゃおどり)」は私には新鮮で、玉を追いかけぐるぐるまわる龍を操る踊り手の速さに驚嘆していると隣から「モッテコーイ!」の絶叫で度肝を抜かれる。港町らしく日本の船はもちろん唐船、南蛮船、阿蘭陀船、御朱印船といった船の曳きものも数多い。「川船」では、船頭の少年が足を踏ん張り、網を放って魚を捕らえると「ヨイヤー!」、曳き手が力強く船体を回転させると「モッテコーイ!」の連続。

 

コッコデショ

今年のくんちに6つの踊町が出たが、上町(うわまち)が奉納した「コッコデショ」に一番圧倒された。コッコデショって何? と思われるだろうが、重さ約1トンもの太鼓山(たいこやま)という担ぎものに子供を4人乗せ、大人36人で担ぎ、スピードをつけて回転させ、空中に放り投げては受け止める。一連の動作の掛け声に「コッコデショ!」というのが出てくるのでこう呼ばれる演し物なのだ。その重量感とスケールの大きさは、私の稚拙な文章ではとても伝わらないだろう。実際のコッコデショをご覧になりたい方は、インターネットで検索してほしい。宙に浮くコッコデショを動画で見れば、あの迫力ともの凄さがおわかりいただけるか。

 

川船 船頭の網打ちと船回し/本踊り (稽古風景)

こんなダイナミックな演し物を奉納するのは、長崎の町の普通の人々だ。早めに参加者を募集し、実際の稽古は毎年6月の「小屋入り」後から本番までの4ヶ月間に繰り返す。夏に長崎市内をさるくと、諏訪神社の踊場や学校の校庭、公園、広場などで夜遅くまで何度も踊町の稽古を見かける。私はこの稽古風景がかなり好きだ。稽古を重ねた後に迎えるくんちの3日間、連続で演し物を披露し、誰もが悲鳴をあげるほど体を酷使する。しかし「シャギリ」(くんちの笛太鼓)が聞こえると皆動き出す。通常なら耐えられない重さも、くんちなら持ち上げる。その姿に見ている方も思わず「モッテコーイ!」と絶叫が止まらないのである。

 

龍踊

今年の10月7、8、9日は連休とうまくつながって、くんちの人出もかなり多かったという。毎年通うのは簡単ではないのだが、7年続けてくんちの一巡を見るのが私のひそかな夢である。歴史ある大祭のひとつだけあって、長崎くんちについては多くの決まり事やしきたりがあり、ここに書ききれない面白い話もたくさんある。読みやすいくんちのガイド本や詳しい書籍が豊富に出ているのでご一読をお勧めする。ネットでこれまでのくんちの動画を見るのも良いが、ぜひ長崎で本物の「くんちばみゅーで!」(くんちを見よう!)とお誘いしたい。

◇写真提供協力 (一社)長崎県観光連盟

(参考)
長崎くんち<長崎伝統芸能振興会>長崎くんち|長崎市公式観光サイト「あっ!とながさき」長崎くんちスタート!ながさき旅ネット長崎くんち塾諏訪神社

えふなおこ(Naoko F)/プロフィール
子供時代から多様な文化と人々に触れ、複数の言語教育(日本語、英語、スペイン語、フランス語、韓国語)を受ける。テレビ局、出版社、法律事務所勤務を経てフリーランサー(翻訳、ライター)。