141号 ツムトーベル由起江

ドイツの12月は甘い。


まずはアドベント・カレンダー。12月1日からクリスマスまでの待降節(正式には4回の日曜日をふくむ4週間)に、ちいさな扉を毎日ひとつひとつ開けていくとかわいいお菓子が出てくる。朝からチョコやグミが食べられるとあって、子供たちの寝起きのよいこと!


6日には聖ニコラウスがやってくる。ギリシャの司教ニコラウスが子どもを救ったという実話に由来し、前の晩に靴をみがいて玄関前に出しておくとニコラウスがお菓子を入れておいてくれる。彼は、家だけでなく、幼稚園や学校、教会にもやってくる。ハロウィーンで集めたお菓子もまだ食べきらないうちに、3人の子どもたちがいくつも袋をかかえて帰ってくるから、我が家のお菓子用戸棚はすでにあふれんばかり。


クリスマス用クッキーを焼くのも、忘れてはならないドイツの伝統だ。プレッツヒェンと呼ばれるクッキーは、スーパーや菓子店でも既製品が買えるが、一回くらいは家族そろって焼きたいもの、という風潮がある。アーモンドパウダーやシナモンを入れ、星や月、ハート、サンタクロース、天使……などさまざまなかたちにして山ほど焼く。できあがったら大きなプレッツヒェン用の缶に詰め、たびたび3時のお茶に。スパイスをきかせた焼き菓子のレープクーヘンやドライフルーツなどが入ったケーキ、シュトーレンとともに、この時期に欠かせないお菓子の代表選手となっている。


締めくくりは大晦日のドーナツだ。ベルリーナーと呼ばれる穴の開いていない丸型の揚げドーナツには、イチゴやキイチゴのジャム、プラムムース、卵リキュールのクリームなどが入って、パウダーシュガーやアイシングで飾ってある。ここまでくると、もう甘いものも飽きた頃かな……などという私の考えはそれこそ「甘い」。大晦日前日にはお気に入りのパン屋さんで両手に抱えきれないほど買わされる羽目になる。
12月にはこのほかにも、北欧の習慣からか、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家をクッキーとアイシングで作って飾ることも多い。クリスマスツリーの飾りはお菓子という家庭もある。とにかく家中、いや街中が甘い香りにつつまれるのだ。


そう、この香りなんだよな。と、街を歩きつつ考える。食べることも好きなのだろうけれど、きっとドイツ人にとってはこの甘い香りこそがクリスマス前の風物詩なのだろう。きりっと冷え込んだ空気の中を、この香りに包まれながら行けば、嫌なことは水に流そうという気分になるし、大切なひとに素敵な贈り物をしたくもなる。私も甘い香りが漂う中、両手にプレゼントを抱え家路を急いだ。

(ドイツ・キール在住 たきゆき)