143号 西川桂子

地元バンクーバーでの五輪ということで、2010年冬季五輪では生まれて初めて、開会式を最初から最後まで見た。特にクライマックスの聖火台への点灯は誰が行うかで、さまざまな噂が飛び交っていただけに、“ワクワク”しながら見ていた……ら、「システムの不備」のアナウンス。


4人のアスリートがスタジアムに設置された聖火台に点灯するところで、氷の柱が4本現れることになっていたのに、装置の不具合で3本しか上がらなかったというものだ。「開会式には興味なし」と豪語しながらも、今回だけは別と、私の隣でテレビを見ていた夫が、「世界中が見ているのに恥ずかしい」とつぶやいた。


翌日読んだ、朝日新聞のニュースサイトは、「開会式の総合プロデューサーのデービッド・アトキンス氏は『一生懸命にやったが、誰もが人間なんだから、こういう失敗もある。世界にいいメッセージを伝えられたと思っている』と笑顔で話した」と報じていた。地元のメディアは、自分の柱だけが上がらなかったものの、落ち着いて対処したと、4人のアスリートの1人、ルメイ・ドーンさんを称えた。「まぁ、こういうこともある。終わったことは仕方がない」と、一夜明けると夫のコメントも変わっていた。


30億人もの人が見守る大舞台での“失態”の責任を声高に問うことなく、“ハプニング”とさらりと流して、みんなで力を合わせて頑張ったと自画自賛する大らかさは今回に限ったことではない。日本人の私が生活していて、「なんて無責任な!」とイライラすることも少なくない。「責任者はどこだ!」と怒鳴りこんで、「ごめんね〜、今度から気をつけるから、許して」と、暖簾に腕押しの返事に脱力することもある。一方で、このゆるい雰囲気に浸ることが増えてきた。今年で在住15年目を迎える。

(カナダ・バンクーバー 西川桂子)