第2回 さらに仕事を調べる 

こちらの新聞の日曜版は分厚い。記事だけでなく、クーポンと広告がごっそり入る。“classified”と呼ばれるセクションがあり、求人、ルームシェア、車の売買、不動産といった情報が満載だ。

ある日曜日、職業紹介のような欄があった。医療関係では、看護師、呼吸療法士、歯科衛生士などが出ていたと思う。深刻な人手不足だとあった。歯科衛生士は、歯科医師の指示のもと、歯科予防処置やブラッシング指導を行う。コミュニティーカレッジ(以下、コミカレ)で、 2年間勉強するプログラムだ。年収はおよそ7万ドルとある。ざっくり1ドル100円で換算しても700万円ほど。えっ、コミカレ卒業で、こんなにもらえるの? いいじゃない。ちなみに日本のリクルート社調査によると、関東地方での歯科衛生士の月給はおよそ20万円とあった。

ただ実際の仕事はどうなんだろう? 現役の技士さんに、本音を聞いてみたい。

この国で、私には知り合い、コネ、知識、何もなかった。医療業界の裏話や学校事情を聞ける人などいない。当時の私はスクラブや白衣姿の人を、外出先で見かけると羨ましかった。ある日、公園のお砂場で子供を遊ばせていたとき。思い切って、見ず知らずのスクラブ姿の女性に声をかけてしまった。

「あのぉー、医療関係の仕事に就きたくて調べているんですけど。質問してもいいでしょうか」

するとその女性は素っ気なく言った。

「私はパートの受付だから、関係ないんじゃない」

今となっては笑い話だが、それほど必死だった。

夫が友人と食事をするので付いて行ったとき。その人が偶然にも歯科医師を誘って連れて来たので、興奮した。早速、歯科衛生士の仕事について尋ねてみた。この医師は注意して話していたが、あまり薦めないようだった。同じ姿勢でずっと患者の歯をクリーニングするので、腰痛や腱鞘炎になる可能性があると言った。どんな仕事でも職業病が伴うように。ただ漠然と、歯科よりも病院で働きたいかな、と思い始めていた。

私に少し情報が入ってきたのは、リビーさんという看護師と知り合ってからだ。当時住んでいた市が主催していた、「ママと子供のため」というクラスで一緒だった。彼女も私のように高齢初産で、私達には同じ年の男の子がいた。リビーさんはカリフォルニア州立大学の看護科卒業、看護師歴15年ほど。今は子育てに専念するため、週に一晩だけ看護師として働いていると言った。夜勤なのでパパが子供の面倒をみられ、シッターを雇う必要はないそうだ。偶然にも彼女の夫は、私の夫が卒業した高校の教員だった。

「医療関係の仕事がいいのは、資格を取ってある程度経験があれば、柔軟な働き方が出来ることかな。しばらくパートタイムで働いて、またフルタイムに戻ることもできる。子育て中の私には最適よ」

私は近所のコミカレで、何か資格を取ろうと考えていると打ち明けた。リビーさんは言った。

「あのコミカレのプログラムは、とてもいいと聞いているわよ。やってみたら?」

知り合い、情報、希望がなかった状態から、少し抜け出したような気がした。

伊藤葉子(いとう・ようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。