第3回 親から子へ初めてのプレゼント、名前

子どもの誕生は家族や親族にとって、ビッグイベントだ。名前は、生まれた子どもへの初めてのプレゼントであり、親は将来のことなどを考えながら、幾つもの名前からたったひとつを選ぶ。日本であれば、各々にとって大切な意味を持つ漢字を選ぶところなのだろうが、ニュージーランドでは名前はアルファベット。なので、良い意味のある単語をそのまま名前にしたり、ミドルネームに優しかった祖母の名や、尊敬する人の名を付け、優しい人になるように、尊敬される人になるようにと名前への思い入れを表すことが多い。

人気の名前はどれ?

娘の同級生や年齢が近い友達に、「レベッカ」という名前の女の子がとても多い。同じ名前の子が何人もいる場合、我が家では、各人を区別するために勝手に呼び名をつける。例えば、幼なじみの子を「レベッカ・ウィルキンソン(フルネーム)」、4つ年上の子を「ビッグ・レベッカ」、「レベッカ・ウィルキンソン」と「ビッグ・レベッカ」の間の年齢の子を「ミドル・レベッカ」、同じ保育園に通っていた子を「プレスクール・レベッカ」といった具合だ。

「レベッカ」には、「Rebecca」「Rebekah」と2通りのスペリングがあるが、最近は圧倒的に後者が多い。こんな風に音(おん)は同じでも、従来と違うスペリングにするのも昨今の風潮だ

名前の流行というのは、どの国、どの世代にもあることに気づく。周囲の人の名前に注意していると、なかなか興味深い。例えば、「リン」は今、60代後半の女性の名に、「イアン」は50~60代の男性の名に多い。こんな具合なので、実際本人を知らなくても、名前だけでだいたい年齢の見当がつけられる。おそらく「レベッカ」は、娘が生まれた年前後で人気があった名前に違いない。

ニュージーランドでは、実際に提出された出生届に基づき、毎年、多い名前のランキングが1~100位まで発表になる。今年発表になった、2016年にはやった名前とはどんなものだろうか。トップ10を見てみよう。

★女の子
1 オリヴィア
2 シャーロット
3 イズラ
4 ハーパー
5 エラ
6 アメリア
7 エミリー
8 ミア
9 アヴァ
10 ソフィー

★男の子
1 オリヴァー
2 ジャック
3 ウィリアム
4 メイソン
5 ジェームズ
6 ハンター
7 ノア
8 ルーカス
9 レオ
10 マックス

男女とも1、2位を占めた名前は一昨年も同じランキングで、手堅い人気のようだ。一方で、10位以下から急浮上した名前もある。女の子では「アヴァ」、男の子では「ノア」「ルーカス」「レオ」「マックス」。トップ10に入った男の子の名前の約半分が前回と入れ替わったことになる。

それでも、驚くような名前は出てこない。もっとも、トップ10には入っていないだけで、珍しい名前がないわけではない。私の周りでいうと、女性では「ハーモニー」「オセアナブリーズ」、男性では「ベイズ」「リーフ」「ユニティ」といったところだ。

ご法度の名前も

子どもの命名については、「キラキラネーム」が話題になり、浸透していることを考えると、日本の方がニュージーランドより規制が緩やかなのかもしれない。ニュージーランドでは法に基づき、提出される出生届にある子どもの名前すべてを内務省がチェックしているそうだ。本人周りにも不快感を与えるものはもちろんのこと、「クライスト(キリスト)」「メサイア(救世主、イエス・キリストの意)」といった宗教関係や、「キング」「プリンセス」といった称号や肩書きを名前に使用するのが禁止されている。文字数に関しても決まりがあり、アルファベット100文字以上や1文字のみというのはご法度だ。

命名に関する法律が導入された1995年から今年の1月1日までに、拒否された名前は500弱あるそうで、その内の約80と最も多かったのが「ジャスティス」という名前。「正義」「公平」と良い意味を持ち、命名したくなるところだが、裁判官に対する肩書きにあたるため、そうはいかない。通常スペリングは「Justice」だが、「Justus」や「Juztice」なども、「裁判官」を意味する「ジャスティス」と同じ発音なので、スペリングが違っても認められない。

ほかにも「*」「V8」「Ⅲ」など、拒否された名前の中には、びっくりのものもあるが、皆個性を追求した結果考え付いたのだろう。子どもに「幸せになってほしい」という親の思いはどの国でも変わらない。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。雑誌、ウェブサイトを中心に、環境、ビジネス、テクノロジー、文化、子育て・教育といった分野で執筆活動を行う。最近、甥夫婦に女の子が生まれた。名前は「アマイア」。先住民マオリの言葉で、月などの周囲に出る「光輪」という意味があるそうで、皆、「意味がある名前は良いものだね」と話していた。