第5回 我が家のコリーの怖いもの

ラッキーの怖いもの、それはズバリ“騒音”。

 

こんなに大きくなってもこの椅子の下が一番安全に感じるよう

ラッキーが生まれたのは、人口3万人程の小さな町。一戸建ての家が並ぶ静かな住宅街の一角で育った。一方ポズナンは60万人が住む大都市。中でも私たちが住む地区はほぼ中心部で、少し歩けばもう車がビュンビュン走る大通りに出る。広い庭付きの大きな家でたくさんの兄弟姉妹やお母さんと一緒に静かにのんびり暮らしていたのに、こんな騒々しいところに連れてこられて迷惑だ、と思ったかもしれない。

 

ラッキーが嫌いなゴミ清掃車。確かに日本のものより大きくて、食べられてしまうような気持ちになるのかもしれないけれど……

ラッキーの1週間は、恐怖の月曜日に始まる。その日は朝からゴミ清掃車が走り出すのだ。朝の散歩に行くのは、娘が学校に行く前の6時半過ぎ。運が良ければ会わずに済むが、大抵はちょうど家を出て歩き始めたころに出くわしてしまう。ラッキーは遠くから音が聞こえてきた途端凍りついたように立ち止まる。比較的静かな土日を経ているだけに、その大きな音に一層拍車がかかっているような気もする。いつまでも逃げ回られても困るので、お座りさせ、通り過ぎるのを待ってから先に行こうとするのだが、右に左にオロオロする始末。

騒音が苦手なのは、ラッキーが来た当初、すぐ近所で新しいマンションの建設や路面電車の線路交換が大々的に行われていたせいでもある。我が家のすぐ前を地響きさせながら大きなトラックが何台も走れば、それはびっくりするだろう。

 

ガタゴト走る路面電車。古くて小さめの型の車両より、大きい新型車両が怖いらしい

ただ、線路交換が終わって、路面電車の運行が再開された後のことまでは考えていなかった。工事していたその場所は、我が家を出て1本向こうの道で、チラと歩いた思い出の散歩コースでもある。ラッキーと初めて散歩に出たときは、まだ路面電車が閉鎖されていたので、何事もなく歩いていた。路面電車が再び走り始めたある日、同じようにその道に出ると、車体のきしむ音やガタンゴトンという車輪の音に震え上がってしまったからもう大変。それ以来、何とか慣れさせようとそちらのほうに行くようにしてみるものの、その度に悲痛な声で鳴いたりするものだから、最近では行く回数を減らし、なるべく静かな通りを行くようにしている。もう少し大きくなったら気にしなくなることを祈りながら。

チラの方は騒音には怯えたことはなかった。もう忘れているだけかもしれないが、少なくとも、ゴミ清掃車や路面電車を見て逃げ出すことはなかったように思う。でも風に舞い上がる小さなビニール袋を見て驚いて飛び上がることがあった。音ではなく、「ふわふわする得体のしれないもの」が怖かったのかもしれない。

 

ラッキー1歳の誕生日の記念にパチリ

そんなチラにもラッキーにも共通して苦手なものがひとつあった。それは「キャンキャンほえる小さな犬」。大きな犬なら黙って通り過ぎるだけなのに、小さな犬がほえてくるのは気に入らないらしい。ひょっとするとラッキーにとってはこれも騒音の一つなのかもしれない。そういえばチラも静かなところが好きだった。怖くはなくてもうるさいのは嫌いだったのだろう。

まもなく大晦日がやって来る。こちらで大晦日から元日にかけての夜といえば、新年を祝う打ち上げ花火。毎年大晦日が近づき、近所の子どもたちが“フライング”して爆竹をパンパン鳴らすようになると、バスルームに逃げ込んで震えていたチラ。今のところラッキーは怖い音が聞こえると椅子や机の下に隠れているが、大晦日の花火にはどんな反応を示すのだろうか。できることなら静かに穏やかに新年を迎えさせてあげたい。

スプリスガルト友美/プロフィール
10月24日、ラッキーはめでたく1歳の誕生日を迎えた。あと1か月もすれば、我が家にやって来て丸1年という記念日だ。最初の頃は私たちが帰宅しても、離れたところから玄関を見つめているだけだったのが、今では遠くから走って来て抱きついてくるようになった。ちょっと出かけただけでもそんなに喜んでくれることがたまらなく嬉しい。
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