第20回 マスク、マスク、ここはどこ?

日本へ里帰りして驚くのは、多くの人がマスクを着用していることだ。ここ南カリフォルニアでは、そういった習慣はなかった。実はアレルギーのある人は多いのだが、くしゃみをしたり涙目でもマスクをしている人は見たことがなかった。この温暖な気候のせいだろうか?

病院の職員でも、必要以外はマスクをつけない。私は小児専門の子ども病院で働いている。患者である子どもに恐怖感を与えるというので、マスクは好まれないようだ。しかし、コロナウィルスが状況を変えた。原則として、職員も患者も着用することが義務付けられるようになった。

「私は閉所恐怖症だから、耐えられない」

 と言う声をよく聞いたが、もう選択肢はない。

N95と呼ばれる特別なマスクがある。入院研修の際、みんながフィットテストを行ってサイズを確認する。咳やくしゃみによる感染を防ぐために、顔にぴったり密着するタイプで、肺結核患者などに接するときに使う。はずすと目とほほの間にあとが残り、数時間ほど消えなかったりする。それほどしっかりしたマスクなので、つけてしばらくすると息苦しくなったりもする。コロナウィルス危機が始まって間もなく、病院の職員にこのマスクが配布され、仕事の間にはつけるようにということだった。マスクに慣れている日本人の私でもさすがに参った。しばらくすると、通常のマスクに切り替えられるようになったので、ほっとした。

私たちは病院の入り口で熱がないかをチェックされ、マスクをつけて職場へと向かう。コロナウィルス危機のため、患者一人に対して、親一人だけの同伴ということになった。以前は、両親、祖父母、患者の兄弟姉妹が一緒に来たりしていた。たまに検査室で小さい妹が泣いてしまって困ったり、ということもあった。今では、患者とママだけといった感じで、検査室もすっかり静かで不思議な感じがする。2020年の6月、まだ状況は変わっていない。勤務する子ども病院は、ディズニーランド、大谷翔平選手が所属するエンゼルス球場の近くにある。闘病中の子どもを励ますため、ディズニーランドからミッキーマウスやグーフィー、エンゼルス球団からはプロ野球選手が来てくれていた。こういった楽しみも、コロナウィルスが落ち着くまでお預けだ。 

余談だが、私の長男はコロナウィルス危機の真っ最中にハイスクールを卒業した。アメリカのティーンエイジャーにとっては、一番楽しみな時期だという。というのも好きな女の子を誘い、リムジンを借りてドレスアップして繰り出すダンスパーティー、派手な卒業式といった青春の思い出となる行事が盛りだくさんだからだ。しかし、そのすべてがキャンセルされてしまったのである。オンラインの卒業式は物足りなかった。キャップとガウンを着て写真を撮るだけになってしまった。少しでも笑いをとろうと、私は「2020年卒業の4年生」というマスクを作った。数字の「0」の部分をトイレットペーパーに変えて、泣き顔の絵文字シールもつけた。このマスクをつけた卒業記念の写真も数枚とったが、予想以上にうけた。2020年は、いつか歴史の教科書に載るのではないかと思う。

伊藤葉子(いとうようこ)/プロフィール》    
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある