第1回 プロローグ その1 ―本当に遠かった、ダーバン―

2020年の年明けから数ヶ月を南アフリカのダーバンで過ごすという機会を得た。その様子を連載という形でご紹介させていただくことになったのだが、そのプロローグとして、まずは行き帰りのドタバタ記をお届けしたい。

―本当に遠かった、ダーバン―

今年の正月は、喪中だったため特にお祝いなどすることもなく淡々と迎えた。そして年初から慌ただしく準備をし、松が明ける7日には、私は羽田空港にいた。

前年末に中国の武漢で「新型の肺炎らしき伝染性の病気が発生したようだ」というニュースが入ってはいたものの、まだ詳しい情報もほとんどなかった。また、今回の目的地ともあまりにかけ離れていたため、予定通りに南アフリカの東海岸、クワズールー・ナタール州の港湾都市、ダーバンへと旅立った。

予定通り……とはいえ、少なからず旅をしてきた者としての勘、あるいは心得というべきか、マスクやサニタイザーなどは、いつもより多く携えていた。というのも、南アフリカの各都市へは日本からの直行便はないため、どこかで乗り換えなければならない。ダーバンもしかり。今回の経由地はカタールのドーハであったが、それがどこであれ、乗り換えの経由地となるような大きな空港には、世界各地から来た不特定多数の人々が行き交うため、まったく心配なく安全とは言い切れないと感じたからだ。

いざ旅立ってみると、空港も飛行機内も、特にいつもと変わった様子はない。一抹の不安はすぐにかき消され、3ヶ月半予定の、ちょっと長めの旅へのワクワク感のほうが大きくなっていった。

ドーハ空港のシンボル、黄色いクマちゃん

ところが、ダーバンに着く前に出鼻をくじかれた。懸念した感染症とはまったく別の理由で。経由地のドーハで、ダーバン行きの便に乗り継げなかったのだ。といっても、想定外の大事件ではない。なにしろ、乗り継ぎ時間は45分。「電車じゃないんだからさ……大丈夫なの、コレ?」と薄々思ってはいた。到着前に機内で、到着ゲート、次便の出発ゲート、ルート、思いつく限りの調べはつけていたが、予定より遅れ気味の着陸と同時に、スマフォに「空港職員にお声がけください」的なメッセージが届いた。イヤな予感は的中した。

カウンターに出向くと、案の定、乗り継ぎ便はすでに離陸したとのこと。航空会社側の問題なので、代替の便は無料で手配してくれるわけだが、ダーバン便は、毎日は飛んでいないという。最速で手配できるのはヨハネスブルグ経由ダーバン行きの便で、夜の出発らしい。その時点で朝の7時。ほぼ一日を、これまで降りたこともない空港でつぶすのも微妙だな……と、渋い顔をで、他に選択肢はないのかとたずねると、カウンターにペットボトルの水が置かれた。交渉スタートのサインかなと苦笑。残念ながら、東洋人のちっちゃいオバさん、という私の見た目は、日本を出たらナメられる対象なのだが「見た目より手強いかも」と思ったのだろう。

別の選択肢としては、日が変わった深夜2時発のケープタウン経由があるという。そちらを選択した場合は、宿泊するわけではないものの「お休みいただくためのホテルをご用意いたします」という。心のなかで(簡単に引き下がらなくてよかったよ! やればできるじゃん……)と思いつつ、笑顔で「じゃ、そちらにするわ」と答えた。

一旦入国しなければならないが、知らない空港でウロウロしているよりだいぶマシである。さらに乗り継ぎをしなくてはならないわけだが、ヨハネスブルグの空港には降りたことがない。一方、ケープタウン空港は降りたことがあるので、乗り継ぎ時間を過ごすにも勝手がわかって好都合だと思ったのだ。

とりあえず、空港内で1万円ほどを、初めて手にする通貨カタール・リヤルに両替した。案内されたバスに乗り、同じ憂き目にあったと思われる人々とともにホテルへ向かう。ホテルはさほど高級ではないが、提供された部屋はキチネットつきのスイート。なんだか数時間じゃもったいないな……などと、セコいことを考えつつ、荷物を置いてシャワーを浴び、フロントで市内の地図をもらって表へ出た。

市場に着くと、騎馬…ならぬラクダに乗った警官がパトロールしていた

天気は快晴。真っ青な空から灼熱の太陽が照りつけ、遠くのモスクからのアザーン(※)が聞こえる。異国情緒たっぷり……おお、中東にいるんだなぁ、と実感した。ガイドブック制作という仕事をしてきた経験上、そして私自身の性格上、まったくなんの前情報もなく知らない土地を歩いたことはない。が、ここはひとつ「トラベル」の語源とも揶揄される「トラブル」を楽しんでやろうじゃないかと、数時間でその土地らしさを味わえる場所、市場へとタクシーを走らせた。

4月末の帰国時には、乗り継ぎ時にドーハに寄り道して数日過ごすつもりだったので、下見かたがた市場をうろつき、ピタパンとフムスなどというそれらしいランチをとり、歩き疲れたら独特のスイーツとコーヒーでパワーチャージしつつ、ひとしきりドーハの気配を楽しんだ。提供された滞在には食事のクーポンも含まれていたので、ホテル内レストランのビュッフェで軽く腹ごしらえをして、迎えのバスでドーハの空港に戻った。

さて、行動も話もちょっと脱線したが、その後はケープタウンを経由し、翌日には無事にダーバンに降り立った。ここでも荷物の受け取りにすったもんだしたのだが、迎えに来てくれた友人のお嬢さんのはからいでなんとか事なきを得て、夕方にはダーバンの友人宅に到着。そうでなくても遠いところへ、なんと2日がかりでようやくたどり着いたわけだ。

次回、プロローグ第2弾では、私史上初体験の緊急帰国の顛末をお伝えする。

※アザーンとは、イスラム教の礼拝を呼びかける唱句で、私のようにイスラム教に詳しい知識を持たないものには、歌のように聞こえる。礼拝の時間には、各モスクから大音量で流される。

凛 福子(りん ふくこ)/プロフィール
東京在住。日本とアジアを中心に世界各地を、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々……のはずだったんだけど、自由に飛び回れるようになるのは、いったいいつのことになるのかなぁ?