第4回 愛のかたち
メキシコ人女性Mさんと知り合ったのは今からおよそ30年前だった。私が現在の夫と結婚する前、当時まだ恋人だった夫と夏のバカンスでメキシコを訪れたときに、夫に紹介されたのだった。意気投合し昼間は観光地やビーチを訪れ、夕食の後は、バー、ディスコと一緒に夜遊びを楽しんだ。かっこいい男の子を見つけるとMさんは、「あの人、私の好み」と言いながら、熱い視線を送っては積極的に話しかけ、楽しそうに会話をしている姿を見て、さすがラテン女子は、自分をアピールすることを知っていると感心したことを覚えている。
 
それから数年後、Mさんは女優を目指し大手プロダクションに所属した。彼女の母親は、コロンビアの出身だ。コロンビアと言えば美女が多いことで有名である。そんな血を受け継ぐMさん自身も、背が高く、スタイルも良く、かわいい顔立ちをしていた。ところが、しばらくするとMさんは、芸能界が自分の居場所ではないと気づき、メキシコのリゾート地でバイトを始めた。お金が貯まると、自分探しの旅に出かけるようになっていた。何かに悩んでいたが、他人に打ち明けることはなかったようだ。そしてまた数年が過ぎ、今度は新しい恋人とともにイギリスに住み始めた。恋人は女性だった。私を始め、彼女の周りの人々は少なからずびっくりした。というのも、Mさんの兄もその数年前にカミングアウトしていて、男性の恋人と交際をしていたのだ。
 
メキシコは国民の90%がカトリックを信仰している。そんな宗教的背景もあり、LGBTQに対してとても厳しい目を向ける国だ。しかし、時代の変化とともに、2010年にはラテンアメリカ諸国で、初めて同性結婚を合法化した。現在は、国内32州のうち25州(自治体も含め)で同性婚が認められている。実際、私の周りにも男性のカップルが多く、社会的地位の高い医師や高級ホテルの役職についているような人々もいれば、いわゆる普通のサラリーマンとして、平凡に暮らしているカップルもいる。
 
とはいうものの、当事者が身近にいない人々やマチスモ文化が根強く残るメキシコでもあり、若い男性や信仰深い高齢者などは別世界の人たちと見なして、なかなか理解を示さない現実がある。特に地方ではまだまだ偏見の目があるのも事実なのである。ご多分に漏れず、Mさんの母親も信仰深い方だったので、子どもが2人も同性愛者ということに、どこで育て方を間違ったのかと自分を責め、苦しんだ末、娘、息子と距離を置くようになり、2人を受け入れることなく疎遠のまま他界した。実の親子でありながら、性的指向を尊重できないまま永遠の別れとなったのは悲しい話だ。
 
そんなMさん、8年近くいっしょに暮らしたイギリス人の彼女と別れ、現在はスペインで新しいパートナーとビジネスをともにしながら、幸せに暮らしている。
 
「いつか結婚しないの?」との私の質問に、「うん、考えることはあるんだけど、なんか必要ではない気がするのよね」とのこと。「万が一重病になれば、家族じゃないと病室に入れないことや、一緒に築き上げた財産相続の問題など困らない?」と問うと、「そこなのよね、考える時もあるんだけど、結局うやむやになってしまうの。まあ毎日が楽しいからいいかって感じ」と、楽天的なラテン人の彼女なのである。
 
メキシコ時代に悶々としていた若き日の彼女と今を比べると、明らかに表情は明るく、誇り高く見える。彼女の幸せそうな笑顔にこちらまで嬉しくなる。Mさんは、メキシコを後にするときにいつもいう。
 
「メキシコの地元にいたら、こんな幸せはなかったと思う。たまにバケーションで来るのはいいけど、ここは私の住処ではないな」
 
そんな彼女の言葉を聞くと、いつかメキシコもLGBTQに対してより寛容になり、どんな性的指向の人でも居心地よく暮らせる社会になっていくといいなと願わずにはいられない。

山本真希子/プロフィール
Makiko Yamamoto de Mier y Teran
1993年から在墨  メディアコーディネーター・ライター・通訳翻訳
メキシコに住み始め25年以上が経過、激しい気性の彼らが起こす恋愛事情は率直に言って『ビックリ』そして『面白い』『明るい』そんな彼らの日常にふれてみた。