わが子は3人とも、1年前までラオスのインターナショナルスクールに通っていた。3年半の海外駐在生活の後、一昨年の冬に帰国。現在は山口県の公立学校へ通っている。海外駐在のあとに日本に戻ると、近所付き合い、学校や職場での人間関係、日本人独自の常識や決まり事など、以前は当たり前に受け入れていたことに抵抗を感じてしまう、いわゆる逆カルチャーショックに陥ることはよく聞く。私の場合、それを一番強く感じたのが、学校の校則に対してだった。
先日、娘の通う公立中学校での懇談会で、飴やガムを学校に持ち込む生徒が増えて困っているという話があった。娘自身は「校則だから守る」とはいうものの、飴やガムの何がいけないのかは、本当には理解していない。それもそのはず、ラオスで通っていたインターナショナルスクールでは毎日、ほぼ全員がおやつを学校に持参していたし、校内の売店で自由に買って食べることができたのだから。
先生の説明では、飴やガムを食べた後に、室内だけでなく、外の植え込みの中にまでゴミを散らかすのがいけないとのこと。
「では、ゴミをきちんとゴミ箱に入れるように指導してはどうでしょう?」と提案すると、
先生は「問題はそこではないのです。菓子を持ってくることがいけないのです!ゴミはその次の問題です!」と、半ばあきれた様子。
そこで、「決められた時間に食べるなら問題ないのでは?」と質問したところ、「おやつを買う余裕のない家庭の子供がいたら問題ですし、飴やガムを持ち込むようになると、学校が荒れます」という回答。飴とガム、恐るべし! 納得いかないが仕方ない。校則なのだから。
ラオスのインターナショナルスクールでは、お菓子の飲食に関しては理科室、図書室、パソコン室での飲食は禁止と校則にあるが、そのほかは教員の判断に任されていた。
日本を出て、異文化の体験を持ったからこそ、やみくもに何でもダメと決めつけるやり方に疑問や葛藤を感じるのだろう。
たとえば服装のきまり。これにはかなり閉口した。
娘の通う中学校では6月と10月に衣替えがあり、11月下旬から、カーディガンなどの着用が認められる。昨年6月は肌寒い日も多かった。ラオス帰りで毛穴全開の娘は、寒かったのか何度も風邪をひいた。温暖化が進み、おかしな天気が続く近年だが、天候がどんなに変わろうが校則は頑として変わらないらしい。
「カーディガン着用期間を自由にしてはどうか?まずは、試しにやってみては?」という提案にも、服装の指導をする先生の仕事が増えるのか、気が進まない様子。「生徒が混乱する」を理由にあっさり却下された。これでは、いつまで経っても何も変わらない。
子供たちは、異文化経験から「世界にはいろんな考え方があり、どちらが正しいとか、どちらが優れているとかではなく、違いを受け入れることが大切」ということを学んだ。今は「郷に入れば郷に従え」に迷いながらも挑戦中。それを横目に、わが道を行きたい私こそ、日本社会への復帰リハビリが必要なのかもしれない。今日もまた「おやつくらい、持って行ってもいいのにねえ」と呟いては、娘に「食べなくても平気だし、欲しくもないのよ」なんて言われている。
《村岡桂子(むらおか けいこ)/プロフィール》
2007年から2010年までラオス滞在。2008年より、ウェブサイトや雑誌に寄稿。現在は山口県在住。小学校非常勤講師、翻訳家、フリーランスライター。