ドイツのおいしいものは? と聞けば、どの日本人からもソーセージとビール! という返事がすぐ帰ってくるだろう。だが、好きなドイツ料理は? と聞かれても首をかしげてしまう人も少なくないはず。かつては地理的にも、フランスやイタリアほど豊富な食材に恵まれてこなかったドイツの料理はたしかにちょっと地味。ピクルスなどの保存食やじゃがいも料理をベースに、メインの肉や魚はシンプルに煮たり焼いたりしたものが多く、またそれらのほとんどはドイツオリジナルの料理ではないという。
その中で、これぞドイツの料理と呼べるのが「アイスバイン(Eisbein)」。もともとは東ドイツ地方の名物料理だ。玉ねぎやセロリなどの香味野菜とクローブなどのスパイス、そして塩を合わせたピックル液に漬け込んだ豚のすね肉を煮込んだもので、ポトフに入れるほか、そのままさまして冷たいものを食べることも多い。
しかし、アイス(ドイツ語でもアイス=eisは氷の意)は冷たいからついた名前ではない。ちなみにバイン=beinは脚である。語源は諸説あり、一節にはその昔、豚の骨をスケートに使っていたことがあることからとされる。また、長時間煮込んで溶け出したゼラチン質が固まった様子が氷に似ているからともいわれている。
さて、今回このアイスバインをいただいたのは「ドイツワインケラー ラインガウ 青山店」。開業は1974年、日本に初めて本格的にドイツワインを紹介した店ともいわれ、四谷にも店がある。渋谷駅から徒歩10分ほど、周囲に飲食店が多くあるようなエリアでもない場所の地下の店にもかかわらず、店はけっこういっぱいだった。それだけ、昔なじみの根強いファンが多いということだろう。
注文したアイスバインは写真のもの。マッシュポテトとザワークラウト、粒マスタードが添えられ、まさにイメージ通り。2~3人で楽しめるこのボリュームで¥2620(税込)なので、都内のドイツレストランなら納得の価格。塩味もまさに「塩梅」よく、しっとりとして味わい深かった。冷たい料理はどうも……という向きには、皮付きのアイスバインをローストしたシュバインハクセがオススメ。
このほかにも、ドイツハムやソーセージの盛り合わせ、ニシンの酢漬け、そしてアツアツのプレッツェルなどドイツらしい料理がずらりとメニューに並ぶ。もちろん、これらの料理にピッタリのビールやワインもさまざまな種類が取り揃えられているので、心ゆくまで本場さながらの味を堪能できる。
洋モノといえばつい、おしゃれなフランス料理や色合いも味わいも豊かなイタリア料理をイメージしがちだけれど、たまには質実剛健で滋味あふれるドイツ料理を選んでみてはいかが?
≪福子(ふくこ)/プロフィール≫
東京在住。アジアを中心に、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。今回から新しい連載のスタート! 世界各国のおいしい物が集まる東京。本当にないものを探すのがむずかしいほどのこのメトロポリスを中心に、日本で食べられる本場の味をご紹介。ときどき「地球はとっても丸い」編集部メンバーや世界各国在住の執筆陣にもご登場いただく予定なので、ぜひお楽しみに!