第28回 ご当地インスタント麺
ミーゴレンにもいろんなバリエーションがあるインドミー

大荷物を抱えたフィリピーナの長蛇の列が成田空港第2ターミナルの毎朝の風景である。どうも故郷に錦を飾る度合いが上がるらしく、彼女たちはフィリピン航空での凱旋帰国を好む。彼女たちがフィリピンの家族へのおみやげとして必ず持って帰るもの。それは日清カップヌードルだ。しかも、シーフード味のみを爆買いしている。カレー味や長崎ちゃんぽんを見かけることもあるがごくまれだ。

フィリピン人は日清推しだが、メキシコ人は東洋水産推しである。マルちゃんはもはやメキシコの国民食だ。日本ではマルちゃんと言えば、和風カップ麺の赤いきつねと緑のたぬきだが、メキシコではカップ入りヌードルである。汁がなくなるまでふやかした麺にライムを絞ったり、チリソースをたらしたりして食べるのがメキシコ流だ。チキン味やエビ味が人気だが、私の推し麺はチーズ味である。

南米ブラジルでは日清が優勢である。しかもカップ麺よりも袋麺のラーメンが人気だ。ところでラーメンのアルファベット表記は全世界的にはramenだが、ブラジルではlamenと綴る。日系人が多いため、日本語の発音に忠実に従ったらlamenになったものと思われる。ブラジルでは汁麺というよりもヌードル入りスープとして食される。スープなのでビーフ味やチキン味が好まれるが、私の推し麺はトマト味である。

中国を除いてアジアの即席麺はだいたいおいしいが、私の推し麺はインドネシアのインドミーである。オーストラリアではインドミーは現地の物価高にあえぐワーホリ邦人の救世主だ。暑いインドネシアでは生麺が傷みやすいので、即席麺を出す屋台や食堂も多い。インドネシアの即席麺の消費量は中国に次ぐ第2位で、汁麺よりもミーゴレンという焼きそばが国民食として愛されている。ハラル食品であるインドミーは、エジプトやナイジェリアなど同じイスラム教国の国々でも売られている。

逆に邦人バックパッカーに圧倒的に不評なのはマギーだ。スイスの食品会社ネスレの即席麺マギーは、インドでは8割のシェアを誇る。しかし、麺を食べる習慣はスイスにもインドにも元々はない。カレーで育ったインド人は食に保守的であるばかりか、味覚音痴である。もちろんインドのマギーはマサラ味に決まっている。現地の食事がまずかったり、高かったり、飽きたりしたときに、即席麺は心強い味方だ。しかし、ことインドでは即席麺でさえもカレー地獄から我々を救ってはくれないのである。

片岡恭子(かたおか・きょうこ)/プロフィール
1968年京都府生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大文学研究科修士課程修了。同大図書館司書として勤めた後、スペインのコンプルテンセ大学に留学。中南米を3年に渡って放浪。ベネズエラで不法労働中、民放テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHKラジオ番組にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行誌に連載。蔵前仁一氏が主宰する『旅行人』に寄稿。新宿ネイキッドロフトで主催する旅イベント「旅人の夜」が7年目を迎える。ロックバンド、神聖かまってちゃんの大ファン。2016年現在、48カ国を歴訪。処女作『棄国子女-転がる石という生き方』(春秋社)絶賛発売中!

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