第12回 ちょっと不足な暮らしがくれたもの

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連載:『サモアの想いで』
文・写真:椰子ノ木やほい(ミシガン州・アメリカ合衆国)

我が家がサモアに暮らしていた頃、青年海外協力隊員として赴任していたご近所さんが、任期を終え帰国するおり「もう要らないから」とギターを置きみやげとして残して行ってくれた。サモア時代、子どもたちに特におもちゃは与えず、娯楽といえば自然を相手に野外を走り回ったり、読書、釣りぐらいだったので、この一つのギターは子どもたちの絶好のおもちゃとなった。

4人兄弟がたった一本のギターを奪い合い、競い合いで練習に明け暮れた。なにしろ、南の島には、このおもちゃで遊ぶ時間は腐るほどあった。子どもたちそれぞれがお気に入りのうたのコードをポロンポロンと独学で身につけていき、サモアを離れるころには、特に息子たちはギター大好き少年になっていた。

4人で一つのギターでは、ちっとも順番がまわってこない。特に、末っ子は争奪戦で敗れることが多かった。しかし子どもは創意工夫の名人だ。一つしかないなら作ってしまえと、ある材料でギターを作り、模型で練習。それでも気分はノリノリで、音の出ない作り物ギターで弾き語りをしたものだ。ギターの弦が切れると、釣り糸を代わりに張って使っていたこともあったっけ……。そんなオンボロギターだけど、子どもたちに与えてくれたものは計り知れない。

アメリカに住む現在、ギターを愛する息子たちそれぞれが複数のギターを所有し、いまやうちじゅうにあらゆるギターが転がっている。この写真を見るたび、「こんなときもあったな……」と苦笑する。無いより有るが良いのかもしれないが、あまりに「暖衣飽食」が過ぎると、人はついつい、モノがあることに感謝する気持ちを忘れてしまう気がしてならない。

サモアで“ちょっと不足”の時代を経たからこそ、それを楽しめる“技”を身につけることができたのではないかとさえ感じるこの頃だ。

≪椰子ノ木やほい/プロフィール≫
フリーランスライター。1997年、のんびりゆったり子育てと、シンプル&スローライフを求めて、家族(夫・子ども4人)で南太平洋の小国サモアに移住し4年間の南国生活を楽しむ。2001年より、アメリカ合衆国・ミシガン州在住。隊員の残してくれた一本のギターがきっかけとなり、音を楽しむ生活はどこにいても続いている。曲を作ったり、演奏したりすることが楽しくて、ローカルイベントには兄弟でバンド活動。その傍ら、末息子はジャズバンドでトランペットを吹くようになり、今月末にはデトロイトで開かれる国際ジャズフェスティバルにも参加する。こうした活動の追っかけママができることもまたシアワセなり。