第4回「ティハール」がやって来た! 


田んぼの稲穂が黄金色に色づき頭を垂れ、青空が広がる秋。ネパールのヒンドゥー教徒にとっての大切な祭り「ティハール」がやってくる。
5日間続く祭りの期間、神話に基づきカラスや犬、牛に祝福の印を与えたり、お金にもティカ(祝福...
LINEで送る

田んぼの稲穂が黄金色に色づき頭を垂れ、青空が広がる秋。ネパールのヒンドゥー教徒にとっての大切な祭り「ティハール」がやってくる。

5日間続く祭りの期間、神話に基づきカラスや犬、牛に祝福の印を与えたり、お金にもティカ(祝福の赤い粉)をつけ、御香で清め祈祷する。 富と豊穣の女神ラクシュミ(吉祥天)を招き入れる新月の日には、吉祥文様の床絵と玄関前から家の中の神棚まで一本道を描き、道しるべとなるよう日没後灯明を灯すので、「光の祭り」とも呼ばれる。そして最終日には家族が一同に集い姉妹が兄弟に対し、健康と長寿を祈願し守護を与える儀式を行うのだ。

バザールには、箒、灯明を灯す素焼きの小皿やキャンドル、果物、胡桃やナッツ類、真鍮やステンレスの食器類、色とりどりの顔料の粉が並び、儀式に必要な物を買い求める客でごった返す。家を隅々まで掃除し、電飾やマリーゴールドの花を飾り付ける。祭りに欠かせない縁起物ドーナツ型の米粉の揚げパンも相当な数を用意するので家庭の主婦は大忙しだ。

子どもたちも長いフェスティバル休暇に入り、すっかり浮き足立っている。もちろん勉強などそっちのけ。竹と縄でこしらえた手作りのブランコに興じ、陽が傾き薄暗くなってきたら、数人のグループでマーダル(太鼓)やタンバリンを手に張り切って囃子歌を歌いながら家々を巡る。「ティハールが来たよ♪キラキラだよ。お宅に踊りに来ましたよ。お願いします(お小遣い)♪」家主は次から次にやってくるグループに、お米と一緒に十ルピーから百ルピー程度の札びらを切る。


どのグループも年長のリーダー格を筆頭に小さな子どもも歌、踊り、楽器、そして集金とそれぞれに役割があり、まとまりよく組織されていて感心させられる。これを5日間続けるのだから結構な稼ぎになる。子どもだけでなく、舞踊グループや楽団が貸し切りバスでカトマンドゥに乗り込んで来て、住宅街で民族楽器の演奏と踊りを繰り広げる。灯明の揺らめきの中、一人また一人と輪は広がり、夜が更けるまで歌い踊る。

ここ数年の間にティハールは様変わりしつつある。家を飾るのは人工的な造花と派手に点滅するイルミネーション。若者らの服装は民族衣装から洋服に、ギターを手にロックやポップソングを奏でる。子どもたちもB-Boyダンスの技を披露しあう。内戦中は販売禁止で入手困難だった爆竹や花火が派手に鳴り響くように。そして祝儀の額もまた見栄を張り合うかのようにうんと高額に跳ね上がっている。その一方で家庭内で行われる神話に因んだ伝統儀式は、今も形を変えることなく毎年粛々と行われている。額に祝福の印を授かり、マリーゴールドと千日紅の首飾りをかけてもらうと笑顔が弾ける。神々を敬い、自然からの恵みに感謝し、共に祈り、家族の絆は固く固く結ばれる。

うえのともこ/プロフィール
借家住まいで「家の飾りつけ」は未経験でしたが、今年初めて親戚宅2軒の床絵製作係りに。材料を揃え、ラクシュミプジャ当日の午後から蓮華をモチーフにした図案を描く作業を担当。色粉を使って絵を描くのはなかなか難しいもの。砂曼荼羅を描く僧侶にでもなったかのような心境に。精神修養の鍛錬によいかもしれません。http://www.shantiweb.com