第9回 肥満児と育児放棄/アメリカ合衆国

米国オハイオ州で小学3年生の男児が体重90キロという深刻な肥満のために親元を離れて里親と生活することになった。
 地元紙によると、男児の親が医師の指示に従わず、適切に子どもを養育する義務を放棄しているとして、ケースワーカ...
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米国オハイオ州で小学3年生の男児が体重90キロという深刻な肥満のために親元を離れて里親と生活することになった。

地元紙によると、男児の親が医師の指示に従わず、適切に子どもを養育する義務を放棄しているとして、ケースワーカー側が一時的に親権を停止したということだ。

米国は子ども虐待や育児放棄への意識が高く、その疑いがあるとされる親から子どもを離すことを積極的に行っている。しかし、肥満を理由に子どもを親から引き離すことは極めて異例であり、今回のケースは新聞やインターネットでも大きく報道された。

子どもの約3割が肥満の状態にあるとされるアメリカ。

食事は簡単に調理できてカロリーの高いものを与えがちだ。ニューヨークのマンハッタンなどごく一部の都会を除いては、登下校も友達の家に行くのも車を使う生活。テレビゲームやコンピューター遊びが定着しているのはもちろんだけれども、小学生でも大人の目のある範囲でしか外遊びできない。

ファーストフード店は公立学校とも結びついている。私の子どもが通う小学校では決められた時間、家庭で読書をするとピザのクーポンが配布される。また、高校スポーツでは試合の入場チケットにハンバーガーの割引き券がついている。肥満児を減らすには難しい条件が多すぎる。

また、今回のケースで、子どもを親から離すことの影響はどこまで考慮されたのか。子どもの将来に好ましくない影を落とすのは肥満か、親と離れて暮らすことか。親とともに生活しながら、慣れ親しんだ友達のいる学校へ通い、彼の体調を管理する支援はできなかったのか。

このニュースを目にしたとき、私がどう感じたかを小さな声で告白する。不審者による「誘拐」よりも、公的機関の「正義」のほうに「子どもを奪われる不安」を感じた。もちろん、その「正義」が存在するおかげで、多くの子どもが守られているのも事実ではあるのだけれど……。

谷口輝世子(たにぐちきよこ)/プロフィール
2011年11月『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)を出版。
デイリースポーツ社でプロ野球、大リーグを担当。2001年よりフリーランスライターに。『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)、『スポーツファンの社会学』(分担執筆・世界思想社)