第4回 病気になったら?

税金の高いノルウェーでは、市民が受けられる社会保障レベルが高いことでもよく知られています。実際に病気やケガをしたときには、どのようなサービスが受けられるのでしょうか。

ノルウェーでは、個人が負担する医療費について年間の...
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税金の高いノルウェーでは、市民が受けられる社会保障レベルが高いことでもよく知られています。実際に病気やケガをしたときには、どのようなサービスが受けられるのでしょうか。

ノルウェーでは、個人が負担する医療費について年間の上限が定められています。地域によって金額は若干異なりますが、私の住んでいるフィンマルク県では一般診療は年間1,890ノルウェークローネ(約2万6,500円)、リハビリテーションや理学療法は年間2,560ノルウェークローネ(約3万6千円)が上限です。この上限を超えると、それ以降は無料で医療サービスが受けられます。

さらに、病気やケガで仕事を休んだ場合、最大連続8日の疾病休暇を1年に4度取得できる権利があります。疾病休暇中の給与は全額支払われ、医師の診断書は必要ありません。8日を超える長期の疾病休暇については、医師からの診断書が必要となりますが、原則として給与の100%が最大1年間支払われます。病気やケガが改善せず1年経っても復職できない場合には、リハビリテーション手当てや障害手当てに切り替わり、復職または転職に向けてのサポートが受けられます。

興味深いのが、12歳以下の子どもが病気やケガをした場合、その親は年間最大10日まで有給休暇を取得できるという制度です。この日数は子供の数に応じて増え、シングルマザー・ファーザーの場合には倍の日数の取得が可能です。また、第2回でお話したように、12歳までの子どもの医療費は無料となっています。さまざまな角度からの子育て支援が充実しているのです。

医療費が安く、病欠しても給与を受け取れるノルウェー。不測の事態が生じても心配のいらない、まさに夢のような国なのでしょうか?

日本とほぼ同じ面積の国土に人口わずか5百万人。病院の数も少なく、患者搬送用の飛行機、ヘリコプター、船が大活躍します

実は、ノルウェーで病院にかかるのは簡単なことではありません。市民は一人ひとり「ファストレーゲ」と呼ばれる担当医を持っています。ファストレーゲは地域の診療所に勤めており、病気であろうとケガであろうと心の問題であろうと、まずはこのファストレーゲに診てもらいます。地域の診療所の設備はあまり充実しておらず、基本的な診療や治療に限られます。ファストレーゲが診療所では対応しきれないと判断して初めて、病院への紹介状を手にすることができるのです。

さらに、保険診療が適用される公立病院の数は非常に少ないのが実情です。私が住むフィンマルク県は関東地方の1.5倍もの面積がありますが、病院は2軒しかありません。病院が少なければ、当然待ち時間が長くなります。我が家の最寄の病院(と言っても、140キロ離れています)では、子どものアレルギー検査は16週間待ち、リウマチの検査は36週待ち、扁桃腺切除にいたっては104週(2年間! )待ちです。また、患者は病院や医師を自分で選ぶことができないため、日本のようにセカンドオピニオンを仰ぐこともできません。

安価で平等なノルウェーの公的医療サービスですが、上記のような問題点もあり、最近では民間の医療保険に加入して私立病院での診療を受ける人や、海外で診療を受ける人が増えています。収入レベルにかかわらず、市民全員が同等の社会サービスを受けられる世界を目指しているノルウェーですが、結局は持てる者と持たざる者との間に格差が生まれてしまっています。

すべての面においてパーフェクトな社会保障、医療システムはありません。どこに住んでいても、やはり健康第一ですね。

(2012年3月9日のレート、1ノルウェークローネ=約14円で計算)

御供理恵(みともりえ)/プロフィール
最寄りの病院が140キロ先という、ノルウェー北極圏在住。健康だけがとりえの私は、いまだノルウェーでの通院歴なし。ただ、二人の子どもたちは喘息発作やケガ、健康診断などで何度も診療所にお世話になっています。地方都市では医師不足も深刻で、外国籍の医師もよく見かけます。診療の後はついつい支払い窓口に並んでしまい、「お子さんは無料ですよ」と笑われることも。ウェブサイト:Arctic Rainbow