第5回 老後はどうしよう?

 
ノルウェーの平均寿命は、男性77.8歳、女性82.5歳。世界で最も平均寿命が長い日本の男性79.0歳、女性86.1歳には届かないものの、世界有数の長寿国です。ノルウェーのお年寄りは、物価の高いこの国でどんな老後を過ご...
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核家族化が進むノルウェーでは、家族が顔をあわせる機会も少なくなりがち。イースターやクリスマスは、お年寄りが何よりも楽しみにしている家族が集う行事です。

ノルウェーの平均寿命は、男性77.8歳、女性82.5歳。世界で最も平均寿命が長い日本の男性79.0歳、女性86.1歳には届かないものの、世界有数の長寿国です。ノルウェーのお年寄りは、物価の高いこの国でどんな老後を過ごしているのでしょうか。 ノルウェーでは、子どもが18歳を過ぎると成人として扱われ、多くの人が親元から巣立ちます。その後も、就職や結婚を機に実家を離れるケースが多く、親と同居している成人した子どもというのはあまり多くありません。第2回でお話しましたように、ノルウェーでは子どもの教育にほとんどお金がかかりません。子どもは、親に対する「借り」がない分、親も子どもからの援助を期待しません。逆に、今の年金世代は年金収入が高く、成人した子どもに対して家の購入などの援助をするケースもあるほどです。

ノルウェーの年金は、日本と同じように就業年数や生涯賃金によって額が変動します。労働者が税金として納めた基金は、政府系ファンドの運営という形で運用されます。この政府系ファンドは、国内への投資と国外への投資の二段構えとなっており、その運用成績も高く、世界中から注目されています。特に興味深いのは、国外への投資を行うファンドの基金には、北海油田による利益が組み込まれているところです。国の資源である油田から得た利益を投資にまわし年金として国民に還元することで、いずれは枯渇するであろう油田という資産を有効に活用しようという考えです。ノルウェーの石油生産量は安定しており、石油資源による収入も安定しています。安定した財源が年金システムに組み込まれたことで、国民が手にする年金額も高水準を保っています。

また、不動産の価格も右肩上がりで、家屋の価値が目減りしないノルウェーでは、持ち家があればそれだけでもかなりの資産となります。さらに、病気やケガをしても医療費の心配はなし。介護が必要になれば、年金の額に応じた利用料を支払って介護施設を利用したり入所したりすることになります。子どもが親の面倒をみるというのはあまり一般的ではありませんが、公的サービスが安価に平等に利用できるため、心配はいりません。

とはいっても、医療サービス同様、地域によっては介護サービスを受けるための待ち時間が問題になることも少なくありません。介護にかかるコストを削減するため、在宅介護を軸としていますが、人手不足に悩む自治体も多く、東欧などから労働力を得るケースも多く見受けられます。 近年人気が高いのが、スペインなどの暖かく物価の安い国への半移住です。ノルウェーの冬は暗くて寒く、ノルウェー人にとっても辛いものです。ましてやお年寄りにとっては、寒さで関節痛などの持病が悪化するなど、夏に比べて健康状態を保つのが難しくなります。物価の安い国でアパートを購入し、冬の間は暖かい場所で過ごし、ノルウェーが暖かくなる頃に戻ってくるというライフスタイルに人気があります。これも、安定した年金があってこその選択肢です。 60年代の北海油田開発を機に急成長を遂げたノルウェー。成長期を支えた世代は、高い年金で豊かな老後を送っています。周辺国を見ていると、いつ何が起こるかわかりませんが、この安心がいつまでも続きますように。

御供理恵(みともりえ)/プロフィール
北極圏の街、アルタ在住。ノルウェーのお年寄りはとにかく元気! 年金の満額支給開始年齢は67歳ですが、早めにリタイアしてのんびり過ごす人もいれば、いつまでも元気に働く人もいます。自然を愛するノルウェー人は、散歩やスキーが健康の秘訣。天気のよい日は外に出て、新鮮な空気を体いっぱいに吸い込みます。背筋がピンと伸びたノルウェーのお年寄り。私も元気に年を重ねたいものです。ウェブサイト:Arctic Rainbow